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愛と青春の真田広之

愛と青春の真田広之 その4

 真田広之はもともと、舞台が好きで好きで・・・という人ではないのだと思う。
 80年代、つまり真田広之が20代の時にマダムが見た舞台は、1985年の『酔いどれ公爵』(千葉真一演出)と『天守物語』(増見利清演出)、そして1986年の『ロミオとジュリエット』(坂東玉三郎演出)の3本。このうち『酔いどれ公爵』はJACのスターのお披露目公演みたいなもので論外なんだけど、それにしてもこの3回とも、演技の稲妻は出なかったのね。
 たとえば藤原竜也とか、それから我らが風間杜夫とかは、舞台の仕事を辞めろと言われては生きていけないくらい、舞台が好きに違いないでしょう?そして彼らは、劇場いっぱいの客の前に登場した瞬間に、客から浴びる視線を自分のエネルギーに変換しちゃうでしょう?客に見られてると、きっと稽古の時の何倍もの力が出るに違いない。舞台俳優って本来そういうものだよね。
 真田広之は観客の視線が好きかしら?どうもそんな感じがしないんだよね。かえって、客の影響で芝居が違ってしまうことが嫌なのでは?と思ったりする。まあ、思いっきり推測に過ぎないんだけど。こればっかりは本人に訊いてみなければわからない。

 1999年に『リア王』英語版に挑んだあと、もの凄いハードなスケジュールで映画の主演が続く。2000年から2002年までに公開された主演映画は『はつ恋』『みんなのいえ』『真夜中まで』『陰陽師』『助太刀屋助六』。まあ2本くらいは『リア王』前に撮影してたかもしれない。その間に『オケピ!』の稽古と公演もあって、テレビの連ドラの主役も1本やってる。なんていうか、取り憑かれたように仕事してるって感じ。だけど『リア王』で打破に挑んだ彼自身の壁はそのまま残されていた。
 で、彼の方向を決定的に変えたのは結局、蜷川幸雄が期待した舞台の仕事ではなく、純国産映画だった。『たそがれ清兵衛』(山田洋次監督)。
 全部観たわけじゃないだろっていう批判は甘んじて受けますが、言わせてね。『たそがれ清兵衛』は真田広之の最高傑作です!映像版演技の稲妻、出まくってます!
 これほど彼に適した役はないだろうという清兵衛の設定。だからドラマが始まったと同時に彼が真田広之だということを忘れてしまう。英語より難しかった、と真田広之自身が言ったらしい山形弁の、訥々とした台詞回し。ひたむきさの中に普段は隠れている剣の強さ。クライマックスの壮絶な殺陣。それも薄暗い屋敷の中の。そしてやっと生きて戻った家に、待っていてくれた初恋の女。
 監督の執念と、脚本の素晴らしさと、カメラや美術の良さと、相手役の宮沢りえの匂うような美しさと、敵役史上に残るだろう田中泯の切れ。どれひとつ欠けてはならなかった全ての条件が、ぴたりと揃った、彼のもとに。
 ああ、ずっと見守ってきてよかったなあ、こんな瞬間に立ち合えるとは・・・ってマダムは思いました、映画館でグチャグチャに泣きながら。至福の時でした。
 結局、この演技が国内のみならず、海外でも知られ、そのあとの『ラスト・サムライ』につながっていったのね。そして、彼は遠くへ行ってしまった。でももういいや。舞台俳優としてではなく、映画俳優として超一流なのを、自他ともに納得したんだものね。自分は映像だな、って選び取れたのだと思う。
 それでももし、日本に帰ってきてもう一度舞台に立つ日が来たなら、マダムは万難を排して駆けつけますわ。(ああ、でもきっともう、無いんだろうな・・・) 

愛と青春の真田広之 その3

 30代の真田広之について、マダムは、なにかこう、壁のようなものを感じ始めてたの。単なるファンが感じられることなんだから、本人はもの凄く自覚してたんじゃないかしらん。
 その壁、の正体をマダムはその頃には上手く表現できなかったけれど、今ならこう言う。
 真田広之には無いものを、佐藤浩市は初めから持っている。(と、思いませんか?ま、しょうがないよね。誰もがみんな三国連太郎の息子に生まれるわけにはいかないもの)
 もちろん、これは逆も言えるの。佐藤浩市が逆立ちしても真似できないものを、真田広之は持っている。だからお互い様なんだよ。でもね、真田広之は努力の人だから、どんな壁も努力して乗り越えてきた。で、努力を続けたら、佐藤浩市の持っているものも手に入るんじゃないかと、思ってたのではないだろか。いえ、思ってたというより、努力する以外進む道がない、というか。
 壁を自分の力で打破すべく、蜷川幸雄を訪ね、今までにない負荷を自分にかけた。のではないだろか。そしてその結果はどうだったのか。
 蜷川幸雄の『演出術』(2002年 紀伊國屋書店刊)という本があって、この中で蜷川幸雄がすごく率直に語ってて、真田広之についても話してる。ちょっと長くなるけど、そっくり引用するとね。

 

(真田広之は)身体が切れる、熱心だし、まじめですよ。それは非のうちどころがないくらい立派ないい俳優ですよ。人間としての生き方もね。彼は僕の演出で『リア王』の道化をRSCで演じてイギリスから帰ってきたら、三谷幸喜さんの『オケピ!』に主演していたでしょう。バランスがとれていて、頭がいいです。ただね、もっとすごいところまで行ける俳優なのに、「くそー、あいつ安全パイ取ったな」って僕は思いますよ。世界レベルでやっていくためのスタートラインに立って、今までの日本の俳優とは違う役者のコースを選べたのに残念だと、いまだに僕は思っています。悔しいと思う。「やるまえから、当たるのがわかりきっているような芝居に、なぜ出るんだ」と思うわけ。別に俺とだけ芝居をやれと言っているわけじゃないですよ。他に選択肢はなかったのか。

 

(真田広之の演じた『リア王』の道化について)権力者リアの孤独な心を救ってくれる役割が、真田さんのフール(道化)からだんだんクワトム(エドガー)に移行していく。そのプロセスを描いていくのが(リア王の)重要な一面だと僕は思っています。そうなるとこの二つの役をやっている俳優がきちんと拮抗していなければ、芝居が成り立たない。(エドガー役の)マイケル・マローニは『ハムレット』も『ロミオとジュリエット』のタイトル・ロールもRSCでやっている力量の俳優なんです。真田さんももちろん、両方やっている。ただ、テクニックだけ取ると、圧倒的に真田さんは負けている。今回の『リア王』は英語での上演ですから、真田さんにはもちろんハンディが大いにあるけれども、真田さんの持っている性格的にスクエアなところが消し去れない。演技が気に食わないので、僕としては困っていたわけです。

 マダムが思うに、『リア王』のあと『オケピ!』をやったのは、安全パイ取ったというよりは三谷幸喜との約束を破るわけにはいかなかったからじゃないかな。それほど律儀なのよ。で、その律儀さこそ蜷川幸雄の言う「性格的にスクエアなところ」そのものであって、演じている時にもそこから完全に自由になることができない。それが彼の越えられない壁だったんだね。マダムは『演出術』のこの部分を読んで、図星指された、とドキッとしたの。まるで自分のことみたいに。
 殻を撃ち破ろうとぶつかっていって、その殻がどうにもならないほど強固だと気づかされて、真田広之は舞台から遠ざかっていったのではないかしらん。勲章もらおうが、すごいすごいと言われようが、彼自身は、自分の舞台での力量を正確に知ってしまったのよ。
 よくそんな冷たいこと書くよ、マダムは。ってみんな思う?でも泣いてんのよ、心の中では。
 彼はもう舞台には戻ってこないだろうと思ってます。だけど、それでもいいの。なんでだかはその4で書くね。
 長くなるって言ったでしょう?

愛と青春の真田広之 その2

 やれやれ、やっとゴールデンウィークが終わったわ。これでいつもの淡々とした日常に戻れる。

 そんなわけで、真田広之についてです。
 1995年以降、彼が演った舞台は次の三本。
  1995『ハムレット』蜷川幸雄演出(98に再演)
  1999『リア王』ロイヤルシェイクスピアカンパニー
       蜷川幸雄演出
  2000『オケピ!』三谷幸喜作・演出
 この3本、いずれもマダムの失われた10年に上演されたので、残念ながら観ていない。その後2003年に『オケピ!』の再演があったけれど、彼は海外の映画撮影の予定が延びたせいで出られず、代わりに白井晃が主役を演じた。その再演なら、WOWOWの生中継で観たんだけど!(さして面白くなかった・・・)
 そして以後、真田広之は舞台には立っていない。
 彼はもう舞台には戻ってこないと、マダムは思う。

 映画でもそうだけれど、真田広之はこれと決めた演出家と組んで仕事をしてきてる。映画監督なら、深作欣二、和田誠、滝田洋二郎といった人たち。舞台では、JAC時代は千葉真一の主導で、それ以降は坂東玉三郎や青井陽治など。いずれにせよ、彼は集客力のあるスターだから、引く手あまただったろうと思う。その中で、彼の方から望んで手を組んだのが、蜷川幸雄だった。
 蜷川幸雄のインタビュー本によれば、蜷川がロンドンで仕事中、真田広之が日本からわざわざ訪ねてきて、「一緒に仕事がしたい」と言ったのだとか。蜷川はその気持ちに打たれて、彼を『ハムレット』に起用し、さらにロイヤルシェイクスピアカンパニー(RSC)の英語版『リア王』で道化に抜擢する。
 これは、はっきり言ってメチャクチャ大きな賭けよ。役者にとっても演出家にとっても。だって、イギリスのシェイクスピア俳優といったら、日本でいえば、忠臣蔵ならどの役でもすぐ出来る歌舞伎役者集団みたいなもんでしょう?そこへ割って入っていく他国の役者って、どれほどの勇気がいるんだ!って思うし、失敗したら役者だけじゃなく演出家も、ボロクソに言われちゃうもんね。だいたい、普通の英語じゃないわけだし、舞台じゃ吹き替えってわけにはいかないよ。蜷川さん、真田広之に賭けたな、と思う。真田広之の方も、これまでの限界を超えるような努力をしたんじゃないかしらん。
 で、結果はそれなりに成功を収め、真田広之は日本人としてRSCに参加した功績を讃えられて、エリザベス女王から名誉大英勲章第五位(これって、どのくらい偉いの?!誰か教えて)をもらうの。
 だけど、これが真田広之を舞台から撤退させる原因になっちゃったんじゃないか、とマダムはにらんでる。
 続きはまた明日ね。

愛と青春の真田広之 その1

 マダムと同世代には、なかなかいい俳優が揃っているの。真田広之、佐藤浩市、中井貴一、時任三郎などなど。みんなうんと若い時にデビューし、今に至るまでずっと活躍し続けている強者ぞろい。
 でも、この中で映像と舞台の両方でピンを張ってきた人は、真田広之だけなのよ。中井貴一は最近舞台も始めたけれど、まだ新人だもんね、舞台では。
 のっけから白状しちまいますけど、マダムはもうかれこれ四半世紀、真田広之のファンです。最近は、ちょっと遠くに行っちゃったなあ・・・って思ってる。

 マダムが真田広之に出会ったのは、1984年お正月のこと。女友達4人で、アイドル薬師丸ひろ子主演の「里見八犬伝」(深作欣二監督)を観に行ったの。日比谷の映画館だった。たしか誰かが割引券持ってたんだと思う。だから、観たくて観たくて行ったってわけじゃなかったんだけど、これが大幅に予想以上の面白さでね。今のCG技術から見たら笑うしかないようなハリボテの大蛇だの妖怪だのが出てくるんだけど、アクションは千葉真一率いるJACのメンバーで固められてたから、全部本物だし、その撮り方、見せ方がまたさすがは深作欣二なのよ。とにかくハラハラドキドキで、夢中で見ちゃうようにできあがっていたの。
 観終わって映画館の外へ出て、4人で日比谷の夜空に向かって叫んだの「真田広之、かっこよかったーっ!」って。薬師丸ひろ子の映画なんだけど、にもかかわらず、これは真田広之を沢山の女の子に知らしめた重要な映画だった。
 以来、真田広之を追いかけたマダムの記憶。「」が映画で、『』が舞台。

1984 「里見八犬伝」深作欣二監督
    「麻雀放浪記」和田誠監督
1985 『酔いどれ公爵』千葉真一演出
    『天守物語』増見利清演出
1986 「犬死にせしもの」井筒和幸監督
    『ロミオとジュリエット』坂東玉三郎演出
1987 『リトル・ショップ・オヴ・ホラーズ』青井陽治演出
1988 「怪盗ルビイ」和田誠監督
1989 「どっちにするの」金子修介監督 
1990 「リメインズ美しき勇者たち」千葉真一監督
    「病院へ行こう」滝田洋二郎監督
1992 「病院へ行こう2」滝田洋二郎監督 
1993 「僕らはみんな生きている」滝田洋二郎監督
    「新宿鮫」滝田洋二郎監督
1994 「ヒーローインタビュー」光野道夫監督
1998 「リング」中田英夫監督
2000 「はつ恋」篠原哲雄監督
2001 「陰陽師」滝田洋二郎監督
2002 「たそがれ清兵衛」山田洋次監督
2003 「ラスト・サムライ」エドワード・ズウィック監督
2005 「亡国のイージス」阪本順治監督

 記憶を辿って書いてはみたものの、ぜーんぜん大した量じゃないね。これじゃ偉そうなこと言えないわ。急速にしぼんだマダムの意欲・・・。
 もちろんこの間に、沢山のテレビドラマがある。ニューヨーク恋物語とか足利尊氏とか高校教師とかタブロイドとか古畑任三郎とかね。CMにも出てた。高原の小枝を大切にとか、ファイト一発とか、生命保険とか栄養ドリンクとか・・・。あとレコードも出しててコンサートもしてたね。(最初の1枚だけ聞いて、マダムは遠慮しといた。)あとはね、上の年表には出してないけど、友情出演でちょこっと出てる映画なら、ざくざく観たわ。とにかくずーっと、忙しい人なのよ。もう追いかけきれない。
 1980年代、つまり彼の20代は、アイドルでアクション俳優で映画スターで舞台俳優で歌手だったわけなの。どの分野からも引っ張りだこの、人気と才能を兼ね備えた人。演出側のどんな要求にも耐えられる人。たとえば楽器を弾くシーンなら弾けるまで練習しちゃうし、木から木へ飛び移っちゃうし、胃カメラだってホントに呑んじゃうし。重い鎧兜を着てても「毎日やってる感じでひらりと馬に飛び乗って走り出してくれる?」って監督が言ったら、すぐやれちゃうし。もちろん殺陣なら殺陣師ができそうだし。今、20代で、こんな人っている?
 30近くなって、もうアイドルではいられなくなった時、彼はアクション俳優と歌手の肩書きを捨てた。舞台俳優としても開店休業になり、活躍の場は映像にしぼられたように見えたのだけど。でも、彼の心の中ではそうじゃなかった。
 その2ではね、舞台俳優と映画俳優の違いについてと、その二つを追い求めた彼について、もう少し書きます。

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