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芝居あれこれ

マクダフの生まれ方〜翻訳と上演台本の間

 今日は、かなりマニアックなお話。興味のある方だけ、どうぞ。
 
 
 『ナルニア国物語 ライオンと魔女』の中に、魔法のかかったプリンが出てくるのを、憶えている方はいるかしら?

 ナルニアシリーズはマダムの幼い時からの愛読書なのだけれど、大人になってから知り合った同胞たちはみな、原書では、このお菓子がプリンではないことを知っていたの(翻訳者の注があったからね。愛読者は皆、注まで読み尽くすものだから)。Turkish Delight(トルコの悦び?凄いネーミング)という名のそのお菓子を、皆一度は食べてみたいと願い、イギリスに行った誰かがお土産に買ってきて試食会が開かれる、というようなことも彼方此方で、あったらしい。かく言うマダムもその一人で、ひとかけら食べただけで頭痛が起きるかと思うような甘さだったのを、忘れはしまい。魔法がかかっていなくても充分、気分が悪くなるような甘さだったわ。もちろん、これはこれで好きな人もたくさんおられるのでしょうけど。
 ナルニアシリーズは岩波の翻訳権が切れて、新しい翻訳が出たそうで、新訳ではプリンではなくターキッシュディライトとしているのだそう。だけど、マダムはこのお菓子を、悩んだ末に「プリン」と意訳した瀬田貞二訳を支持するわ。今でも。なぜなら、この翻訳は、日本の子供が読むためのものだったから。そのとき瀬田貞二は自分の立ち位置を、少しだけ、小さな読者たちの方へ寄せたのだ、と思うから。

 前置きが長くなった。でもこれは重要な前置き。

 1月にカクシンハンの『マクベス』を観て以来、気になっていたことがあった。カクシンハンの演出とかとは関係がない。翻訳のことなんだけど。
 マクダフの生まれ方について。

 マクダフは、最後にマクベスにとどめを刺す貴族。妻子をマクベスに殺され、恨み骨髄でマクベスに向かうんだけれど、マクベスの方は
「女から生まれた者は誰一人、マクベスを倒せはしない」
松岡和子訳
という予言を魔女からもらっていて、誰のことも全然怖くないの。ところがマクダフに
「月足らずのまま、母の腹を破って出てきた」
んだ、って言われて、マクベスは予言の隙を突かれたことにショックを受ける。
 ここの台詞(翻訳)が、どうしても腑に落ちない。
 だってさ、どこから出てこようが(帝王切開だろうが)、女から生まれたことに変わりはないでしょう?予言の裏をかいた感じが、わからないの、この台詞では。

 1月のカクシンハン公演の時、マダムの脳内では「あれ?マクダフって女の股からは生まれてないぞ、って話じゃなかったっけ?」という声がした。そして、「女の股」と翻訳した人は誰だったのか、気になったら、いてもたってもいられなくなり、当たれるだけの翻訳に当たってみたの。でも、見つからなくてね。

 松岡訳(承前)のほか、小田島雄志訳では魔女が
女が生んだものなどにマクベスを倒す力はない」
と予言し、マクダフが
「女から生まれる前に、月足らずのまま母の腹を裂いて出てきた」
と看破する。河合祥一郎訳では魔女は
「女から生まれた者にマクベスは倒せぬ」
と予言し、マクダフは
「母の腹から月足らずで引きずり出された」
と言い返す。
 予備知識なく芝居だけを見て、マクベスが魔女に騙されたショックを観客が受け取れるのは、小田島訳なのかな、とは思う。「女から生まれる前に、・・・出てきた」と言ってるから。それでも、「女の股」の納得感には負ける。

 友人たちと話してみて、「女の股」は『メタルマクベス』の上演台本を書いた宮藤官九郎の作ではないか?と行き当たったの。このあいだ録った録画を消してしまっていて確認するすべが今ないんだけれど。
 確か、魔女の「女の股から生まれた者にはマクベスは負けない」という予言があり(歌になってたかも?)、対するマクダフの「俺は女の股から生まれてない。俺は月足らずの帝王切開だから」みたいな分かり易いセリフになっていたような。『メタルマクベス』の録画を持っている方、ちょっと確かめてみてください。

 『メタルマクベス』(劇団新感線)は、シェイクスピア翻案物に厳しいマダムをも唸らせる面白さだったのだけれど、なにより上演台本が凄くよく出来ていた! シェイクスピアがどんな人物設定をし、どんなつもりでセリフを書いたかを、よ〜く理解した上で、初めて見る観客にもわかるような意訳でセリフを作り直し、さらにもっと面白くなるように話を盛っているの。土台の、「よ〜く理解」のところが、ホントによ〜く理解なので、どんなに意訳してあっても、どんなに盛ってあっても、ちゃんとマクベスらしいマクベスになっていた。
 
 翻訳本はシェイクスピアの書いたセリフから大きく離れることはできないから、「女の股」とはできないよね。そこが読み物としての翻訳本と上演台本の違いなのかな。
 でもせめて、「女に産んでもらった奴にはマクベスは倒せない」くらいには意訳してもいいのではないかな。そうしたら「自分で母の腹を破って出てきた」とマクダフが言い返した時、「俺は女に産んでもらってないからな!」っていう感じがちゃんと出るし、マクベスのショックがわかるじゃない?
 日本語の「生まれる」には、そもそも母によって生み出される感がない。もっと自然現象な感じ。だから生んで「もらった」とわざわざ言わないと、魔女の予言とマクダフの看破の、違いが出ないじゃない?
 ここで前置きで言ったことに戻る。最後の最後には、立ち位置を、日本の観客の方へ、少しだけ寄ってほしいの。
 それがいち観客としてのマダムの希望。
 メッチャ、細かいことにこだわってるんだけど。
 マクベスって何度も何度も見たから、いろんなこと考えちゃうのね。

浦井くん、芸術選奨新人賞受賞

 ビッグニュースが飛び込んできたよ!
 我らが浦井健治が、平成28年度芸術選奨<演劇部門>文部科学大臣新人賞を受賞した〜。
 やった〜!おめでとう!
 文科省もたまには良いことするよー。えらーい(この件に関しては)。
 文科省のHPで受賞の理由をしっかり読んできたんだけど、この1年間の「タイプの異なる4作品で、俳優としての進化を強く印象付けた。」ってことだ。4つの作品とは、『アルカディア』『あわれ彼女は娼婦』『王家の紋章』そして『ヘンリー4世』ね。全部、観てるっ!当然〜。

 今年の出演予定作は全てミュージカルだし、半分は再演。マダムとしては1作くらいは手強いストレートプレイをやってほしかったの。それが役者としての可能性をもっと押し広げてくれるだろうと期待しているから。いや、そんなことより、演技の稲妻に出会いたいから!
 でも、マダムの願いを聞き入れて(?)、映像に出演するのを最小限にして舞台に精進してくれてることを、ホントに感謝してる。来年の『ヘンリー五世』も決まってることだし、それまでは頑張って生きることにしてるから、まあいいかしらね。

 おめでとう。浦井くん自身と、浦井健治ファン(つまりマダムたち)、本当におめでとう!

横田栄司 in チェーホフ!

 私生活的に忙しくて、しばらく劇場に行けないマダム。
 家のPCには、楽しみな芝居の予告が色々届くんだけど、やれ、来年2月だの、来年5月だの、来年9月だの!いくら面白そうでも、来年の話なんか、生きる糧にならなーい。
 そこへ、飛び込んできた、このニュースに、マダムは踊った〜!
 今年9月、ケラ演出のチェーホフ『ワーニャ伯父さん』に横田栄司出演〜。やったー、超楽しみ! ケラ演出のに出る、ってところが肝心でね。だって、一昨年のケラ演出『三人姉妹』がマダムが初めて面白いなあって感じたチェーホフだったから。それまでチェーホフはピンと来たことがなかったの。ケラリーノ・サンドロヴィッチ自身で上演台本を作ってる、ってところがミソなのではないかしらと、マダムは思っているのだけれど。
 はやる気持ち抑えきれず、『ワーニャ伯父さん』を読んでみた。
 実はうんと若い時、上演を観てるはず・・・なんだけれど、全然憶えてなくてね。確か俳優座の舞台だったということ以外、なあんにも憶えてない。ダメな舞台だったかどうかもわからないの。だって、マダムは寝てたのかもしれないしね。本も読んだと思うのに、何一つ覚えてないの。
 でも今回、読みながら、あーこの役は宮沢りえだよねー、あーこっちが黒木華だねきっと、あー、それでこれ、じゃなくてこっちが横田栄司!だって、あっちが段田安則だから・・・とか色々、色々思い浮かべたら、なんだか凄く面白く読めたの。役者を嵌め込んで読むと、会話が立体的になって、何も起こらなくても、面白いの。まあ、マダムの年の功もあるかもしれないけど。
 あ〜、早く彼がどの役をやるのか、知りたいなあ。あのいい声のセリフに、耳傾けたい。
 今年の横田栄司のラインナップは凄いのよ。だって、4月に鵜山演出のギリシャ悲劇でしょう? 9月がケラ演出のチェーホフでしょう? そしてたぶん(これは勝手にマダムが決めてるの。だって吉田鋼太郎芸術監督第1作に彼がいないなんて、ありえないからっ。)12月に吉田鋼太郎演出のシェイクスピアだよ?!
 マダムが好きな役者さんの中でも、こんな凄いラインナップの人はほかにいない。ちょっと、来てるぞ〜って思う。
 ほんとによかった。マダムも今年はこれで生きていける。だって、やっぱり一番好きなのはストプレなんだもん。ミュージカルも悪くはないけどさ・・・。でも。
 ぎっちり中身の詰まったストレートプレイに浸りたい。

 
 
 
 

王道をゆこうよ

 愛よね。愛がなくちゃね。かみしめながら、書き始めるわ。

 かつて、ミュージカルは苦手と公言してたマダム。最近はなんだかんだで、帝劇やら日生劇場やらに行ってしまうようになった。全ては、Starsのリーダー井上芳雄のせいよ。彼らの活動に熱狂しているうちに、ミュージカルにすっかり散財してしまってる。策士だよねー、井上芳雄。
 Starsの武道館コンサートで、キンキラキンの衣装で「最後のダンス」を歌われた日にゃあ、もう降参。思わずマダムは「トート、やってえーっ!」と叫んでしまい、そのあとホントにトートをやることになったんだから、凄いというか偉いというか。マダムのみならず、マダムの周りの友人たちも大挙して帝劇に押し寄せることになったの。
 でも、トートに辿り着いたあと、彼は少し立ちすくんでいるように思える。

 彼が『黒蜥蜴』に出演するという記事を読んで、マダムは唸ったわ。いったいどこへ行こうとしているんだ、貴方は。そのあとも次々、ストレートプレイのラインナップが聞こえてくるけれど、マダムはどうも気が進まない。それはマダムのみならず、まわりにいる、マダムより昔から彼をずっと観てきたファンも同じ様子で。
 はっきり言うけれど、これは彼が結婚したからでは断じてない。もしファンの気持ちが揺れているのを、結婚したからだと考えているなら、その考えこそが、ファンが離れるいちばんの理由なの。ファンはね、結婚しようが離婚しようが、また結婚しようが、実はそんなことはどうでもいい。舞台で輝きを放ってくれればそれでいいの。その輝きに翳りが見えるから、みんな付いていくことに躊躇しているのよ。そこを理解しないなら、それを結婚のせいにしてるなら、今の壁を乗り越えることはできないよ。みんな、彼が壁に直面してるのを感じてる。バカじゃないのよ、ファンは。

 模索しているんだってことは、よくわかるの。でも、やっぱりマダムは彼に歌ってほしい。彼の魅力の80パーセントが歌なの。そこを極めてほしい! もうストレートプレイで修練しなくていい。いまさら修練なんか見たくない。ミュージカルを極めようよ。修練ならミュージカルでしようよ。逃げないで。だって・・・数多いるミュージカル界の王子たち(浦井健治や山崎育三郎、中川晃教や城田優、田代万里生etc、etc)のなかで、井上芳雄こそが皇太子だと思うから。王になることを嘱望されているの。そういう道を歩んできたでしょう?それを王道と言わずしていったい何が王道でしょう?
 だから。
 井上芳雄は・・・・ジャン・バルジャンをやるべきだ、とマダムは思うの。
 言っとくけど、ジャベールじゃダメなの。ジャベールは彼に向いてる役。すぐ出来ちゃうから。それじゃダメなの。自分の殻を破り、壁を乗り越えて、ジャン・バルジャンをやれるミュージカル俳優になってほしい!
 そうしたらまた、マダムたちは大挙して、帝劇に押し寄せるよ。ちょっと悔しいけど。マダムはまだ、日本のミュージカル、認めてないからさ。でも、マダムをミュージカルの世界に誘ったのだから、責任があるのよ、貴方には。
 だから。ジャン・バルジャンを目指せ!
 狭き門より入れ。王道を行こうよ。Climb Every Mountain!
 
 マダムの声が彼に届くかは甚だ疑問だけど、そして何様のつもりだって言われちゃう恐れを乗り越えて尚、マダムは言いたかったの。何も言わずに去るには、愛がありすぎる。

 

速報!浦井ヘンリー五世、再び

 きゃっほー!
 みんな、もう聞いてる?
 新年早々、来年の話なんだけど、2018年5月、新国立劇場で『ヘンリー五世』の上演が決まったよ!!
 主演は勿論、浦井健治その人。やった〜!これまでの鵜山組、続行よ。
 喜びのあまり今、うちで「We will Rock You」かけながらひと踊りして、マダムは、ツイッターのアイコンをヘンリー五世仕様にしたので、ツイッターの方もよろしくね。(ていうか、受験生の母の顔はどこにいったのかしら〜〜〜?)

 ヘンリー四世、観なかった人はもう、後悔してるでしょ?
 そうだよ、シリーズなんだから、見続けると喜び倍増なのよ。
 来年まで、頑張って生きるぞー。

深夜の岡本健一

 スマスマが終了してしまって、マダムはいよいよテレビで見るものがなくなったわ。家族がいなくて一人の時、テレビはほとんど点いていない。CDか、iPadで音楽をかけてる。
 年越しの時も、子供が見ているカウントダウンコンサートの様子を片目でチラ見してたぐらいだったんだけど、そこに岡本健一の姿を発見した時には、眼を普段の2倍くらいの大きさに見開いてしまったよー。
 なんという格好良さ・・・・色っぽーい!
 マダムは岡本健一のアイドル時代、殆ど憶えていない。役者岡本健一となってからのファンだからね。それだって勿論、かっこいいのも色っぽいのも承知してたわ。承知していたのですけれども!
 いや〜、ホントにアイドルだったんだな〜。ギターをしゃくりあげる(?)ような仕草がたまらん。中年になって更に磨きがかかっているね〜、オーラ全開。
 
 その岡本健一の舞台『炎 アンサンディ』が3月に再演される。初演で観なかった方!マダム絶賛のおすすめです。絶対、観るべき。彼だけじゃなくって、出演者全てが素晴らしい。
 実はマダムは見に行かないかもしれないの。私生活的に一番忙しい3月だから。それに初演の印象が脳に焼き付いているので、それを大切にしておこうかな、って・・・(土壇場で気持ち翻るかもしれないけど)。
 でも、観てない方には強制的おすすめします。
 初演のままの演出なら、岡本健一のエアギター姿が見られるかもよ。

2016年の総括

 今年、劇場で観た芝居は以下の通り。( )内は演出家。

1.  劇団カクシンハン公演『ジュリアス・シーザー』(木村龍之介)
2.   さいたまネクストシアター✖️ゴールドシアター『リチャード二世』(蜷川幸雄)
3.  マームとジプシー『夜 三部作』(藤田貴大)
4.  テアトル・ド・アナール公演『従軍中の若き哲学者ルートヴィヒ・ウィトゲンシュタインが・・・(以下略)』(谷賢一)
5. 『家庭内失踪』(岩松了)
6. 『焼肉ドラゴン』(鄭義信)
7. 『イニシュマン島のビリー』(森新太郎)
8. 『アルカディア』(栗山民也)
9.  劇団民藝『二人だけの芝居 クレアとフェリース』
10.  ハイバイ『おとこたち』
11. 『アルカディア』(栗山民也)
12. 『カクシンハン版リチャード三世』(木村龍之介)
13. 『八月の家族たち』(ケラリーノ・サンドロヴィッチ)
14. 劇団イキウメ公演『太陽』(前川知大)
15. KAKUSHINHAN POCKET HISTORY『ヘンリー六世 三部作』(木村龍之介)
16. 『コペンハーゲン』(小川絵梨子)
17. 『あわれ彼女は娼婦』(栗山民也)
18. 劇団AUN公演『桜散ラズ・・・』(市村直孝)
19. 『あわれ彼女は娼婦』(栗山民也)
20. 『887』(ロベール・ルパージュ)
21. 『エリザベート』(小池修一郎)
22. 『ジャージー・ボーイズ』(藤田俊太郎)
23. 子供のためのシェイクスピアカンパニー『オセロー』(山崎清介)
24. 『レディエント・バーミン』(白井晃)
25. 『ラヴ・レターズ』(青井陽治)
26. カクシンハン『じゃじゃ馬ならし』(木村龍之介)
27. 『王家の紋章』(荻田浩一)
28. 葛河思潮社『浮標』(長塚圭史)
29. 加藤健一事務所『ハリウッドでシェイクスピアを』(鵜山仁)
30. 劇団アマヤドリ公演『月の剥がれる』(広田淳一)
31. 『あの大鴉、さえも』(小野寺修二)
32. 『遠野物語 奇ッ怪 其ノ三』(前川知大)
33. 『ヘンリー四世 第一部』(鵜山仁)
34. 『ヘンリー四世 第二部』(鵜山仁)
35. 『ヘンリー四世 第二部』(鵜山仁)
36. ハイバイ『ワレワレのモロモロ東京編』(岩井秀人)

 結局こんなに観ているのか、と数えてみて今、唖然としているマダム。しかし、見応え充分な1年だったわー。ホントに楽しかった。
 今年はシェイクスピア没後400年ということで、いろいろな公演があったのだけれど、マダムとしては、この記念の年に、カクシンハンという劇団を発見したことと、新国立でシリーズ化した歴史劇『ヘンリー四世』の一挙上演が、まず大収穫だった。浦井健治の演技の稲妻も久々に浴びたしね。
 そして今年は大劇場よりも小さな劇場にこだわってみようと思っていたのだけれど、これが大成功。ぶっちぎりで1位なのは、イキウメの『太陽』。これほどの完成度の芝居は、ほかになかったわ。次点はハイバイの『おとこたち』。場違いのスタオベをしてしまったくらいだったっけ。この二つの劇団は、これからもずっと追っていくわ。
 それとここで挙げておかねばならないのは谷賢一作・演出の『ウィトゲンシュタイン・・・』すでに古典の仲間入りをさせてもいいくらいの出色の出来栄えだったの。もいちど観たい。再演をつよ〜く望むよ!
 ミュージカル部門でも、大収穫。成河の加わった『エリザベート』の完成度は本場に匹敵するくらいだったし、『ジャージーボーイズ』で中川晃教の歌の稲妻を浴びることができて、幸せだった〜。
 そして今年、蜷川御大とのお別れがあった。もう御大の演出するシェイクスピア作品にも会えない。だけど、そのあとを吉田鋼太郎が引き継いでくれることになって、来年以降の大きな楽しみができたの。マダムとしては、引き続き、シェイクスピア押しでやっていこうと思ってる。
 
 みなさま、一年間、ありがとうございました。
 来年もまた、良い芝居に出会えますように。そして、みんなの穏やかな暮らしが壊されませんように。

春まで本数、減ります

 なんかもう、そのまんまのタイトルなんだけど。
 マダム家は、今年またまた受験生を抱えておりまして、春までは観劇の本数を絞り込むことにしております。
 そんなこと言っていながら、ヘンリー四世は二部ぶっ通しで観るつもりだし、年明けにもすぐシェイクスピアを観る予定だし、本当に絞り込んでんのか、という葛藤のある毎日です。ですが・・・芝居を観たとしても、記事をしっかり書けないかもしれないので、そこのところ、ご容赦願いますね。(むしろそっちの問題が大きいのです。)

 芝居を1本観ると、記事を書くのに、その3倍から5倍くらいの時間がかかります。好きでやってるので、別に文句言ってるわけじゃないんです。ただ、春までは手抜きも辞さない覚悟で、母親業に力入れてみようか、と。(ホントかな?)
 そういうわけですので、春まで本数、減ります。たぶん。

横田ホレイシオ再び

 シェイクスピアの講座に行ってきたわ。10月22日(土)1:30〜、清泉女子大学。

 
清泉女子大学ラファエラ・アカデミア一日講座
シェイクスピア没後400年記念特別企画
『ハムレット』から見える世界 トークと朗読ワークショップ

 講師 横田栄司
    米谷郁子(司会) 清泉女子大学英語英文学科准教授

 
 役者さんが講師になるシェイクスピアの講座は、これまでも色々あったのだけれど、平日のことが多くて、なかなか行けなかった。今回は土曜日だったので、これ幸いと行ってきたの。
 配られた資料には、ハムレットについてのアカデミックな説明が色々あり、マダムが日頃気にしていた「ハムレットって、一体いくつの設定なんだろ?」というような疑問にも、答え(あくまでも研究上の)が載っていて、なるほどなるほど、と思ったの。
 でも、始まったら、とにかく「今日はもう、横田さんの話を聞こう」という流れになり、受講者全員が、待ってました!な感じで、前半は横田栄司のほぼ独演会だったわ。

 彼はこれまで、「ハムレット」に様々な役で出演している。蜷川演出に初めて出たのが、真田広之主演の「ハムレット」で、このとき彼はレアティーズ。その後、野村萬斎主演の「ハムレット」でホレイシオ。そして皆知ってる藤原竜也主演の「ハムレット」でホレイシオ。
 会場では萬斎ハムレットのときのDVDから、幕開きのシーン(夜中の城壁で、ホレイシオが亡霊に会うシーン)が流れた。10年以上前の作品なのに、横田ホレイシオは今と変わらぬ落ち着きが備わっていて、マダムはおおっ!と思ったわ。
 ホレイシオは好きですか?と問われ、それについては好きとも嫌いとも言ってなかったけれど、ホレイシオは俯瞰する人物だ、と分析していて。そして知性の人である、とも。だから幽霊なんか信じていない。その彼が王の亡霊を見たから、信憑性があるのだ、という言葉に、納得。
 話の中心は、二度のホレイシオ体験について。同じ役とはいえ、相手役によって変化があって、萬斎ハムレットとは学友な感じだけど、藤原ハムレットとは悪友な感じだった、と。そしてそこから、昨年の「ハムレット」のときの蜷川演出が、いかに苛烈なものだったかの話になった。
 当時すでに闘病中だった蜷川御大は、車椅子で酸素チューブ付き。病院から稽古場に通っていた。病院のベッド上、御大の頭の中では稽古がどんどん進んでいて、でも現実の稽古場に来てみると、出来てたはずのことが出来ていない。なので、御大はいまだかつてなかったほど激しく怒っていて、とても大変であった・・・そうなの。
 「竜也にもっと優しくしろ!」と怒鳴られ、「・・・あの、それは、舞台上でしょうか?それとも、普段の竜也に、ですか?」と問い返し、「馬鹿野郎!舞台上に決まってんだろ!飲み屋で優しくしてどうすんだ」とまた怒鳴られた横田栄司。「それなら竜也に、じゃなくて、ハムレットに優しく、と言ってくれないと・・・」って。みんな大爆笑だったわ。
 この話を聞いていて、マダムはちょっとリア王を思い浮かべたの。御大、ちょっとリア王入ってるよ。
 
 質問していいと言われたので、早速手を上げて質問してみたマダム。
「本来なら今頃、小栗旬くんのハムレットが上演されていたと思いますが、横田さんはどの役をやるはずだったのですか?」
 我ながら、めちゃくちゃいい質問だわ。答えは、
「出演の予定はあったんですが、役はまだ言われてませんでした。」
とのこと。でも、ホレイシオはもうなかっただろう、と。ホレイシオは、二人のハムレットには相まみえない、のだそうだ。だから、他の役、いくつかを挙げていたんだけど、「なにがやりたいですか?」と訊いたら、素晴らしい答えが返ってきた!
「河内大和とのコンビで、ローゼンクランツとギルデンスターンがやりたいです」
だって! うおー、なんて贅沢。それ見たい、是非、それ採用してほしい。そして「ハムレット」公演後、今度はその二人で引き続き「ローゼンクランツとギルデンスターンは死んだ」を演ってほしい!!!
 さい芸シェイクスピアシリーズ番外編で、是非!
 
 休憩を挟んで後半は、朗読ワークショップ。受講者の中で希望した人が前へ出て、ハムレットとホレイシオとオズリックのセリフを読み合ってみる。
 何組かやってみたんだけど、毎回、横田アドバイスによって、どんどん変化して、芝居が立体的になっていくのがわかるの。面白い!マダムは、出来上がった芝居も好きだけど、作っていく過程も好き。見ると、ワクワクする。
 最後に、受講者の中にいたAUNの齋藤慎平と、清泉の学生さん(たぶん)、そして横田栄司で、読み合ってくれた。もちろん横田ホレイシオで。
 横田ホレイシオの「負けるんじゃないですか、この試合」というセリフがまた聞けて、幸せだった。
 
 あっという間に2時間が過ぎ、聴き足りない気もしたけれど、とにかく楽しかった。芝居を観るだけじゃなく、こうやってあれこれ考えたり、勉強したりするのがよっぽど好きなんだね、マダムは。老後もたぶん、飽きないわ。
 
 探求する次の課題も見つかった。
 司会の米谷先生が少し言いかけて、あまり掘り下げずに終わってしまったのだけれど、ホレイシオが死んだハムレットに言う「Goodnight,sweet prince」というセリフの「sweet」。これが問題なの。
 これをどう翻訳するか。2003年に河合祥一郎訳で、初めて翻訳された(と、マダムは聞いてます。ホントかな?)ときは「やさしい王子さま」。
 でも米谷先生的には「やさしい」よりも「いとしい」である、と。そうなると、少しホモセクシャルな感じになってくる。
 じゃあ、小田島訳、どうなってたんだっけ?と思って、見てみたら、「おやすみなさい」だけになってて、王子様すら訳されてなかった!
 このあたりについては、個人的に、探求してみたいな、って思ってる。
 

ミュージカル俳優浦井健治ファンのための、「ヘンリー四世」講座 その3

 その3、遅れてしまい、ごめんなさい。
「ヘンリー四世」だけを読んだのでは、イマイチ理解できないところが出てきてしまいます。そこで知っておきたいのは、この作品の大前提になっている歴史的事実。一番のポイントはここです。

5. 王様(ヘンリー四世)は何をそんなに悩んでいるのか?

 王様は、しょっぱなからイライラしているのですが、それは息子のハル王子が放蕩息子だからというだけではありません。
 実はこのヘンリー四世、正統な皇太子から王になった人ではないのです。
 王家の血筋なのは間違いないのですが、従兄弟である前王(リチャード二世)がダメな王様だったので、戦って、彼を無理やり退位させ、自分が王様になった。リチャードを幽閉し、結局は死に追いやった。それがヘンリー四世です。
 リチャード二世から王位を簒奪したときには若く血気盛んで自信満々だったけれど、年を取ってくるにつれて、自分が正統な王でないことが気になっていきます。部下である貴族たちも、王に対して少しでも不満があると「あいつは本当は王になるべき奴じゃなかったんだ」とか「我らが王にしてやったのに、今の偉そうな態度はなんだ」とか裏で言うのです。王と呼ばずに、王となる前のボーリンブルックという名前で呼ばれるときは、たいてい悪口なわけなのです。
 ですから王様は、自分が死んだ後、王位を巡って争いが起きるのではないかと、気が気ではない。死ぬ前に、悪い芽は摘んでおこうと必死なのです。それなのに息子は親の気も知らないで遊んでいる。だから、ますますイライラしてしまうのです。

 一方のハル王子が、なぜ父王に逆らって遊んでいるのか。
 そこは何も書かれていないのですが、マダム的解釈では、父王の「後ろ指さされない、王様らしい王様でありたい」みたいな変なプライドに対して、素直になれないところがあるのでは?と思えますね。

 この王位の正当性問題は、「ヘンリー四世」のお話全体を覆っている空気の色を決めていると言ってもいいでしょう。そういう意味では、題名が「ヘンリー四世」であるのも、うなずけます。

 そして結局のちのちには、王位を巡って貴族たちは真っ二つに分かれて戦う内戦に突入してしまう。それを描いたのが「ヘンリー六世」三部作なわけです。
(ちなみにヘンリー四世が若いとき王位を奪ったのを描いたのが「リチャード二世」という芝居です。いずれ、新国立劇場でやってくれないかなあ、とマダムは期待しています。もちろんリチャードが岡本健一、ヘンリー・ボーリンブルックを浦井健治で。

 以上がマダムの「ヘンリー四世」講座です。
 台本を読むヒマがなくても、とりあえずこのくらいの大前提さえ頭に入っていれば、芝居を楽しめるんじゃないかなあと思った次第です。
 サクッと説明、なんて言って、やっぱりちょっと長くなってしまいました。お許しを。

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