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野田地図『華氏マイナス320°』を観る

 評判も情報もかなり遮断されていた。5月22日(金)ソワレ、東京芸術劇場プレイハウス。
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 NODA・MAP 第28回公演

 『華氏マイナス320°』
 作・演出/野田秀樹
 美術/堀尾幸男 衣裳/ひびのこづえ
 振付/井出茂太
 出演 阿部サダヲ 広瀬すず 深津絵里 大倉孝二 高田聖子
    川上友里 橋本さとし 野田秀樹 橋爪功 ほか
 



 いつの頃からか、野田地図に関してSNSで具体的な感想を言うことは御法度のようになっていて(なんでだ?)、今回も殆ど前情報は入ってこなかった。それはつまり、予備知識なしで臨んだ方がいいよ、という皆のメッセージだろうと思ったので、とにかくなんの準備も心構えもなく、劇場に出かけていった。
 それで。
 このブログでぼんやりしたことしか書かないのは嫌なので、私は普通にネタバレもするし、テーマにも触れるつもり。まっさらの状態で観たい人は、ここで引き返して、観てからまた来てね。観た人にしか通じない感想だと思うし。
 
 
 百戦錬磨の観劇の達人のような人が「今回は難しかったんだよ、よくわからなかった」と言ってたので、私としてはよりコンディションを整えて挑んだつもりだったのだが、実際のところ、やっぱりわかりにくかった。私はパンフも買ってないし戯曲も読んでなくて、本当に一度だけ舞台を観ただけ(野田地図についてはこれまでもずっとそう)。少なくともその私の理解は越えてた。なので、あらすじっぽいものを書くことはできない。

 テーマは障害と、出生前診断についてで、命の選別をしてはならない、と訴えるもの。凄い巨大なテーマ、ぶっ込んできたな、と思うけれど、お話の作りはいつもの野田地図。古代の人骨を遺跡から掘り出すシーンから始まって、人類の記憶は骨から骨へ伝わってきたという研究を進めている女博士(深津絵里)と、その研究から出生前診断の新薬を開発しようとする製薬会社の社長たち(高田聖子、橋本さとし)と、研究材料とされそうになる男(阿部サダヲ)と、謎の堕天使(広瀬すず)が絡み合う。女博士の師匠(橋爪功)や女博士の助手(野田秀樹)も絡む。骨に宿っている記憶を探っていく話なので、話が現代と中世と古代にまたがって、あっちへ飛びこっちへ飛びする。
 作りはいつもの野田地図なんだけど、今回はついていくのが大変で。私の歳のせい?
 役者さんたち、現代と中世と古代に出てきて、それぞれ別の役なのに、関係性は似てたりするので「あれ、今ってどの役で喋ってるんだっけ?」と混乱して、考えてしまう。こっちが考えてるうちに、舞台上ではどんどん芝居が進んでいっちゃうので、色々聴き逃す。いつも以上に、置いてきぼりになることが多くて、困った。
 なので、話を理解することを途中で諦め、役者さんを眺めることにした。
 広瀬すずが、動きも台詞も素晴らしすぎて、眺め甲斐があった。声がよく通り滑舌もいいので、全ての台詞が気持ちよくスイスイ届く。動きが機敏で綺麗。もちろんスタイルも抜群。これまで、野田地図のミューズは、松たか子、宮沢りえ、深津絵里の3人だったけれど、遂に跡継ぎの若手が現れた。『Q』の時、既に輝いていたけれども、今回観て、演技の確かさも場の支配力も数段高まっているのを目にして、本当に眼福。
 他の役者さんたちは通常の実力通りだったんだけど、ハーメルンの笛吹き男役の大倉孝二がいつもにまして印象的だった。もちろん、役のせいもある。笛吹き男は、実験のために捕えられているネズミたちを解放しにやってくる。彼が笛を吹くと、ネズミたちは踊りながらついていき、脱走に成功するけれども、逃げた場所が「ヤマユリの咲く、あの場所」と呼ばれるところで、最終的には笛吹き男そっくりの殺し屋がやってきて襲われてしまう(時代が違ってたかもしれない。記憶がごちゃごちゃになってる?)。「ヤマユリが咲く、あの場所」から連想されるのは相模原で起きた障害者施設での殺傷事件なのだが、この言葉遣いだけでパッとそこに結びついた観客はあまり多くなかったかもしれない。それより、大倉孝二演じる殺し屋の単刀直入な行動がショックだったし、このシーンを描くことは野田秀樹の覚悟、みたいなものを感じた。
 
 命の選別をするな、という主張は本当に至極真っ当なテーマで、その通りなのだが、最後にミューズである深津絵里演じる女博士に「生まれる前に障害があるとわかっている子どもでも、私は産みます」と宣言させて終わったので、正直なところ私はガックリきた。結局、女に重大な選択を委ねて終わるんかい?と思って。
 ごちゃごちゃした物語の中で、すんなり面白がれたのは、古代の巫女ヒミコ(深津絵里)に母親のハミコ(高田聖子)が「早く子どもを産みなさい、女の子を!それを巫女の跡継ぎにするのよ。名前はフミコで、決まり」とうるさくせっつくところ。ハヒフヘホになってるのがバカバカしくて可笑しいんだけど、古代から今に至るまで女は子どもを産め産め言われてるんだー、全く!と思った。それなのに、重要なテーマも結局、女に選択を丸投げなの、あまりにも酷い。
 観客の中にいる10代〜30代の女性たちが、日頃から受けている「子どもを産め」圧力がどれほどのものか、作家は気づいていないのか? 「早く産め」「男の子を産め」「女の子も産め」「きょうだいがいた方がいい」「頭のいい子を産め」「背の高い子になるように」「 イケメンだといいね」「スポーツが得意だといい」「少子化を解決しろ」もう沢山である。
 障害のある子どもを育てている夫婦の離婚率は高く、夫はその責任から逃げていく人がたくさんいて、女だけが一生を子どもに捧げることになってる例がとても多いと聞いている。若い女性たちはそういう情報も知っているのよ。だからどういう子どもであれ、産むこと自体がリスクだ、と無意識のうちに受け止めている。怖がっている。それは女のせいじゃないし、女が心を決めれば済むようなことじゃない。そこまで考えてほしかったよ。
 なので、最高レベルの舞台効果が見られたし広瀬すずは輝いてたし、観てよかったんだけど、結末には大いに不満が残る芝居だった。
 
 とはいえ、今回はちゃんとわかってないので、色々誤解しているかもしれない。自信ない。

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コメント

おそらく、これから見られると思うのですが…。私はネタバレは気にならない人なので、読ませていただきました。
広瀬すずさん、楽しみに観に行きます。「Q」は観てないので、これが初めて…。

ちょうど、授業で、エンハンスメントにふれたばかりでした。
もし、その流れだったとしたら、野田さん、今回は、男性ゆえか…ちょっと考えが浅いというか。年齢…のせいか。それは違うか…。ともあれ、当事者感がないような…。

ちかさま。
広瀬すず、素晴らしいです。逸材です。堪能してきてください。
野田さん、良くも悪くも演劇界ひとすじなので、今の20代くらいの女の子(芸能界ではなく普通の社会人)のことを知らないのかな、と感じました。知らなくても描けることと、知らないと描けないことがある、と思った次第です。

2010年の『ザ・キャラクター』以来見続けていたのですが、今回チケ手に入らずに終わり、野田地図はリセール市場チケを完全シャットダウンなのでそういう事も転売ヤーにも知られ切ったので50日間マチソワ日もあるくせに一体何処へチケットは消えたのでしょう?
観劇録読みましたか、『パンドラの鐘』の焼き直しかとしか思えません。

叡さま。
行かれないの、残念です。叡さんの率直な感想を聞きたかった。
私が行った日も、当日券の抽選に並ぶ長い列を見たので、難チケ中の難チケなのですね。

私のレビューだと、何が何だかわからないでしょ? ちまたで問題になっている手話部分のことなどは、どう判断していいか全くわからなくて、触れていませんし。

ちょっと考えていたので、反応遅くなりました。
マダム、割と「母性」に関するテーマだと反応が過激ですよね?『我ら宇宙の塵』の時もそうだったなぁ〜と思い出したりしています。
私が、子供を作らなかったせいもあるのかも知れないけど、私は、あの結末を「女に丸投げ」とは、まったく思わなかったんですよね。そういう発想そのものが、私には欠落しているみたいです。あれは窮理博士個人の選択なので、それはそれかと。そもそも、窮理博士、女かどうかもわかんないし。

手話の話は、舞台でやっているのは「手話歌」というジャンルのもので、一般の日本語手話とは、文法そのほかがちょっと違うんだそうです。それを知らない人が、ちがーう!手話を適当に使うな!と騒いだらしいのですが、全体としては誤解は解けた模様。

ぷらむさま。
私はそもそも「母性」って怪しいな、と思っているので、ちょっと拒否反応強めなのかもしれません。
なんかね、油断すると付け込まれそうな気がしているというか…。
お話がよく理解できなくて、その部分だけが頭に飛び込んできてしまったので、反応が大きいのかもしれません。ホント、よくわからなかった。
「手話歌」に関しても、美しかったけれども、芝居全体に対する絡み方が飲み込めず…だいぶ前に一度、野田地図を見なくなってた時期があるんですが、またそうなりそうな予感がします。

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