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今年はじめの一本 『スリル・ミー』

 まだお正月気分の抜けない感じで、出かけた。1月5日(土)マチネ、東京芸術劇場シアターウェスト。

ミュージカル『スリル・ミー』
脚本・音楽・歌詞/ステファン・ドルギノフ 翻訳・訳詞/松田直行
演出/栗山民也   ピアノ/朴 勝哲
出演 松下洸平 柿澤勇人

 友人の評判がとても良い芝居の再演(再再演?)。ダブルキャスト(もう一方は成河と福士誠治)のどちらを観るか迷った末に、『アテネのタイモン』で格好よかったカッキーの方を観てみることにしたんだけど、マダムはミュージカルとは思わずに、観に行ったのだった。
 いや、チラシにもちゃんとミュージカルって銘打ってあるの。でもそこ見てなかった〜。
 
 とても良くできた本ね。二人の役者の力を最大限に引き出す本なので、キャストを替えつつ再演を繰り返してきたのも納得なの。青年の美しさを堪能する芝居でもあるところが、女性客の心を掴んでる。
 これはね、小さめの劇場を何年も借り切って、ずうっとロングランするのにぴったりな芝居だと思うわ。演出は変えずに、キャストだけ毎回3組くらい作って、半年くらいやって、それから1組ずつキャストを変えていく。「私」と「彼」が入れ替わってもいい。キャスト候補がいろいろ頭に浮かぶわ。当分、満席だと思うな。やってほしい〜。
 思いっきりネタばれしますんで、これから観る人は、ここで引き返してね。
 

 「私」(松下洸平)は50を過ぎて、無期刑で入っている刑務所から釈放されることになり、そのための審問を受けている。審問で「私」は35年前の事件について、これまで語ってこなかった真実を語る。
 未成年だった「私」はその頃、「彼」(柿澤勇人)に恋していた。「彼」は美しくて頭脳明晰なエリートでバイセクシャルで残酷な男。「私」は夢中で追いかけるんだけど、「彼」に捨てられそうになって、奴隷のようになんでも「彼」の言うことをきくようになる。「彼」は犯罪を犯すスリルで快感を得る倒錯者だったので、「私」に片棒を担がせ、倉庫や納屋に放火しては、興奮する。エスカレートする「彼」に引きずられ、「私」は遂に、少年を誘拐して殺すことに加担してしまう。
 快感で絶頂にある「彼」をよそに、「私」は遺体を捨てた場所に自分の眼鏡を落としてきてしまったかも、と恐怖に震える。やがて眼鏡のせいで「私」に捜査の手が及び始めると、「彼」は「私」に罪を負わせて自己保身に奔走する。「私」はここでも「彼」の言うことを聞いて、一人で罪を背負っていく・・・かに見えたのだけれど、「私」はここで、一気に形勢を逆転させるの。
 「私」は自首し、犯罪の詳細を自白する。「彼」に処分しろと命じられていた証拠品(少年を殺したナイフや、血の付いた衣服)は、実は処分せずに「私」の自宅に保存してあって、それには「彼」の指紋がべったり付いていた。
 果たして「彼」も逮捕され、二人は同じ無期刑となり、同じ刑務所で暮らすようになる。それは実は「私」の望んだことだった。愛した「彼」を誰にも渡さず誰にも手を触れさせず、自分だけのものにすること、それが「私」の望みだった。望みが叶って「私」は幸せだった、「彼」が刑務所内の喧嘩で刺されて死んでしまうまでは…。
 というお話。
 
 無駄なところがなくて、二人だけで一気に畳み掛けていく芝居。ピアノの演奏が効果音となり、興奮や恐怖や切なさを余すところなく語るの。ミュージカルだから、二人がそれぞれの気持ちを歌い上げるんだけれど、内容が内容なので、高揚感よりも緊迫感が大きい。観る方も一瞬も気が緩むことがなくて、瞬きも忘れて夢中で見たよ〜。
 「私」の松下洸平は、肩を落とした50過ぎの男から、若くてただ恋い焦がれる、自信のない青年まで、細かく演じ分けて、「私」が「彼」を思う心の狂おしさがひしひしと伝わってきたの。狂ってるとしか言いようのない愛だよね。この人を他人に渡したくない、そのためなら本人を殺すことも厭わないような、恋。
 「彼」の柿澤勇人は、スーツ姿が美しくて素敵。立ち姿の美しい人。でも、これは難役だわ〜。容姿や台詞以外の、絶対的なオーラのようなものが必要な役で、しかも最後には舞台から消えていってしまい、死ぬ様子も描かれない(いわゆるナレ死ってやつ。彼は死にました、って他人の台詞で言われる)。限られた出番と台詞で、存在感を示さなくちゃならないから。
 
 堪能した〜。1年が良い芝居で幕を開け、マダムも満足。

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コメント

この作品、なんか面白そうだな〜と思って、初演(2011年)の新納慎也さんと田代万里生君のペアのを観たんですが、その時の衝撃は忘れられません。

今は無きアトリエ・フォンテーヌのせまーい空間でピアノ1台と、ベテラン新納さんとまだまだ若手有望株だった万里生君の真剣勝負。今思えば、贅沢なことでしたねー。
その時の、もう一方のペアが、カッキー/洸平の、このペアでした。若くて未知数だったけど、事件の実年齢に近く、体当たりの一所懸命さが好評でした。新納さんたちが「卒業」してしまった今では、このペアが「日本最古のペア」です。

さて、この作品は、やっぱり「彼」が難役ですよね。
事件そのものが「私目線」で描かれているので、「彼」は「私」から見た「彼」でしかない。「彼」の本心や、心情のつながりは、どこにも描かれていないんですもんね。だから「彼」役者は、自分でそこをつなげて行かないといけない。そして「私」が命を賭けて求めるだけの「男」じゃなくちゃいけない。
あれから、別のペアも観ましたが、観るたび、初演の新納さんは偉大だったな〜と、今でも思います。

ぷらむさま。
初演はそんなに前だったのですね。
新納さんの舞台、私は見たことがないと思うのですが、最近インタビューなど読んで、なかなか骨のある役者さんなんだな、と感じています。初演、見たかったなあ。
スリルミーは、ほんとにロングランの実験してほしいです。日本で、ロングランがどんな形で可能か、試してみるにふさわしい題材のように思いますよね。

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