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大人を唸らせる 子供のためのシェイクスピア『冬物語』

 初日に行けばよかった、と後悔している。7月14日(土)ソワレ、あうるすぽっと。

子供のためのシェイクスピアカンパニー『冬物語』
作/ウィリアム・シェイクスピア(小田島雄志翻訳による)  
脚本・演出/山崎清介
出演 板倉佳司 山口雅義 戸谷昌弘 若松力 キム・テイ
   大内めぐみ 大井川皐月 山崎清介

 初日に行けばよかった。そうしたらもう少し早くブログに記事を書けただろうし、みんなにお薦めすることができたのに。書き始めたのが東京千秋楽の日なんだもの。間に合わん。(今後、地方公演あるようなので、地方の方、お見逃しなく!)
 2013年の夏に『ジュリアス・シーザー』を観て以来、ほぼ毎年必ず観ているこのカンパニー、毎回満足するし感心することも多いのだけれど、今回ほど演出に唸ったことはなかったの。なるほど、このようにシェイクスピアの本を解釈することができるのね、と。
 『冬物語』は赦しの物語、とされていて、ラストはやはりその感動の嵐なのだけれど、この演出はさらに一歩踏み込み、赦してもなお取り戻せはしない時の不可逆性を、ちゃんと示していたの。凄かった。
 
 舞台はいつもこの座組みがそうであるように、木製の椅子とテーブルを組み合わせたセットで、シンプル。全員が黒いコート姿でクラッピング(拍手)しながらリズミカルにシーンを運んでいく。出番が来てコートを脱ぎすてると、美しい織りと光沢のある衣装が現れ、その役になる。8人の役者が全員二役(+コロス)をこなす。そして、主宰の山崎清介が操る人形が「時」の役割を担って、芝居の中で進んで行く時の流れを説明する。

 あらすじは説明しないね。ごめん、『冬物語』を知らない人にはなんのことやら、わからないかもしれない。どうしたって、解釈に触れずにはいられない。

 マダムは、『冬物語』で大事なのはリオンティーズの「なんの根拠もない」激しく理不尽な嫉妬をどうちゃんと描くか、だと思ってきたの。だから先日見たロイヤルバレエの冬物語で、リオンティーズ役の平野亮一の嫉妬で狂っていく演技が素晴らしいと感じたのね。それが、物語を支えていて、だからリオンティーズが主役なの。
 でも今回の舞台を観たら、リオンティーズは本に書いてある通りで、それ以上でも以下でもなかった。そうしたら、その理不尽さが倍増して迫ってきたので、驚いた。リオンティーズの愚かで頑なな思い込みは、王であるがゆえに誰も止めることができない。『冬物語』には誰も悪人は出てこなくて、誰かを陥れようとしたり自分が成り上がろうとしたりする人物はだあれもいないの。だからみんな、王の嫉妬を根拠のないものとして諫めようとし、悪影響が及ぶのを止めようとするの。神託(神のお告げ)すら、王を止めようとする。だけど、止められなくて、みんな薙ぎ倒されていく。
 例えば忠義者のカミロー(貴族)は、王妃の不貞の相手ポリクシニーズを殺害せよと命じられる。けれど、王が間違っていると思うカミローは、ポリクシニーズを殺さず、逃亡の手助けをする。そのせいで自ら自分の国を追われ、16年もの間、帰ることはできないの。
 例えば赤ん坊を荒野に捨ててこいと命じられた貴族アンティゴナスは、リオンティーズの追っ手の来ないボヘミアの海岸まで赤ん坊を捨てに行き、誰かに拾われて育てられるよう最善を尽くす。それなのに自らは直後に熊の餌食となり命を落とすの。その上、アンティゴナスと赤ん坊を運んだ船は荒れた海に沈み、船員たちも皆死んでしまう。
 母妃が牢屋に入れられ引き離された幼い王子も、ショックのあまり死んでしまう。それを聞いてハーマイオニーも気を失い、一度は死ぬのだ(16年もの間、姿を隠さなければならなかった)。
 山崎演出は実に丁寧に、善意の人たちが薙ぎ倒されていく様子を描いていく。それも、余計な力を排して、淡々と、時には軽やかに。
 
 そして、それを受けてのラストの演出が凄かった。
 リオンティーズが赦しを得てめでたし、とはならなかったの。これほどまでに皆が薙ぎ倒されたのだから、時が経てば水に流される、とはいかなかった。
 ハーマイオニーの彫像が動き出して、リオンティーズとの再会を果たすシーン。全てが赦され、めでたし、であるように思われてきたけれど。
 今回のハーマイオニーはリオンティーズを温かく包んだりはしなかった。ただ静かに見つめていただけ。そして娘のパーディタにだけ「あなたが生きているという神託があったから、母はこれまで生きてきたのですよ」と言葉をかけるの(でも、これ、ちゃんとシェイクスピアの本通りなのよ!)。ハーマイオニーは娘との再会を心の支えに生きてきたのであって、リオンティーズのために生き延びたわけではなかったのよ。
 そして一番マダムがすごいと思ったのは、夫アンティゴナスを失ったポーリーナのラスト。リオンティーズはこれまでのポーリーナの労をねぎらい、自分だけが幸せであってはいけないとも思ったのか、カミローを新しい夫として授けようとするんだけど、そして普通の(?)演出だと、なんとなく二人もくっつかせてめでたし、となりそうなところだけど。
 ポーリーナの反応は、夫アンティゴナスを失った傷がそのようなことで癒えるものではない、というもの。台詞はないんだけど、表情と佇まいでそのことを示すの。で、鈍感なリオンティーズはポーリーナの本心が汲み取れない。自分だけいい思いをするのが後ろめたいだけなの。それでカミローを呼んでポーリーナの「手を取れ」って言うのね。そこまでは本通り。
 王に促され、カミローはポーリーナの元へ歩いていく。カミローはいい奴だし、命じられて嫌々ではなく、ポーリーナに好意を持っているのが様子でわかるの。そして、台本にないカミローの台詞がここで出た。ポーリーナをまっすぐ見て淡々と「貴女さえよければ」って言ったの。
 これ、すごいよ。その一言で、リオンティーズは鈍感だけど、カミローはちゃんと今のポーリーナの気持ちがわかってるんだ、って示してる。貴女の気持ちを尊重しますよ、って伝えてるのよ。
 結局ポーリーナは同意はしない。しないけどカミローがいい奴だってことはわかったので、ポーリーナはカミローの手を取り、袖へ消えていく。この、メデタシじゃないけど、人の心というものを大切に扱った演出はどうだろう!ホント、素晴らしい!

 優れた演出っていうものは台本の、これまで当たらなかった面に光をあてて見せてくれる。『冬物語』って、実はポーリーナが主役だったのね。信念に忠実に生きるというのはこういうことだ。
 
 

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