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『レインマン』を観る

 チケット争奪戦に出遅れた結果、平日夜の観劇となった。ちょっとハードだ。7月24日(火)ソワレ、新国立劇場中劇場。

『レインマン』
脚本/ダン・ゴードン 上演台本・演出/松井周
出演 藤原竜也 椎名桔平 安蘭けい 横田栄司 吉本菜穂子 渡辺哲

 蜷川御大亡き後、藤原竜也の芝居に行かなくなっていたの。『アテネのタイモン』は観たけれど、あれは藤原竜也の芝居、ではなかったし。
 ではなぜ、今回行ったのかというと、彼の役が、王でも王子でもなく天才殺人鬼でも稀代のペテン師でもない、フツーのあんちゃんだってことと、演出が松井周だからってことなの。
 マダムは松井周の劇団サンプルの公演を観たことがないし、作品もよく知らない。ただ一度だけ松井周の演技を見たことがある。それはハイバイの『ヒッキー・ソトニデテミターノ』で、急病の古舘寛治の代役として出ていたときだった。台本を持ったまま、という大胆な代役だったのだけれど、その役がどんな人なのかを深く理解した佇まいで、マダムの代役史上最高の演技だった。こういう人の演出は信じられるぞ、と思ったわけなのよ。
 
 原作は有名な映画だし、ストーリーを説明しなくてもいいよね?
 
 マダムの予感は的中し、フツーのあんちゃんを演じる藤原竜也が、とても生き生きしていたの。彼のデビューが『身毒丸』や『バトルロワイヤル』だからといって、本人の中にいつも狂気が渦巻いているわけじゃなし、普通の青年の役をなんでやらないんだ、と思ってたのよ。チャーリーの、人生投げやりでやんちゃでいい加減で女好きで・・・っていう設定、(芝居に対する態度を別にしたら)本人に限りなく近そうな役だよ、これ。
 だから、ひとりで朗々と台詞を語るところなんかなくて、悪態ついたり言い訳したり、遺産欲しさに自閉症の兄を連れ出す無謀さとか、その兄がすぐ隣室にいるのに恋人とセックス始めちゃったりする自制心のないあんちゃんぶりとか、めちゃくちゃリアリティがある。彼の芝居でこんなにリアリティがあったの、『天保十二年のシェイクスピア』以来じゃなかろうか(そういえば、あの時の役も時代劇だったけどいい加減なあんちゃんだったわ・・・)。
 もちろん、本人に近いからという理由だけでいい演技ができるわけないので、そこは面白い本と、的確な演出と、手練の共演者と、本人の努力があるのだというのはよくわかっているのよ。
 そして、ラスト、いいように利用してきたかに見えた恋人をちゃんと抱きしめてキスするところなんか、いつどこで覚えたんだっていう美しい、女の抱き寄せ方を見せてくれて。ダメダメなあんちゃんが芝居の終わりに一瞬カッコよく見えるの。それはこの芝居のテーマそのものだし、成功してる。
 
 そして抜かりなく配置された共演者の上手さ。
 映画でダスティン・ホフマンがやったレイモンド、椎名桔平が素晴らしいの。ダスティン・ホフマンに負けないくらい上手くて、ダスティン・ホフマンよりあざとくない。最初から最後まで椎名桔平であることを忘れて、自閉症でサヴァン症候群のレイモンドとして見惚れてた。映画の印象ではダスティン・ホフマンが主役のような演技だったと記憶してるし、実際チャーリーよりも遥かに難しい役だと思う。チャーリーには次々とドラマがある(倒産に追い込まれる→父が亡くなる→遺産を期待する→兄がいることを初めて知る→遺産が全部兄に行くことがわかる→兄を連れ出す→兄と自分の秘密を知る→「レインマン」の謎が解ける、などなど)けど、レイモンドは閉じてる人だから、ドラマがほんの少ししかないのね。相手に反応するっていう演技を、かなり封印しなくちゃならない。かといって、全く反応しないわけでもないので、ひとりで作り込まなくちゃいけない大役なのよ。椎名桔平、映像ではいい役者だと知ってたけれど、舞台でこれだけの演技ができる人だったとは。
 チャーリーの恋人スーザンの安蘭けいも、安定の上手さ。しかし、もし実年齢に近い女優を連れてくるときっと、大人の女にならないんだろうなぁ。それはそれで問題だ。
 そして三役を演じ分ける横田栄司。彼のおかげで、舞台を安心して見ていられるのだけれど、なぜこの役目を彼がやらなきゃいけないのか、マダムはちょっと不満。これを書いているちょうど今日、読売演劇大賞の上半期の男優5人の中に選出されたニュースがあったばかり。高い技能を持った役者さんには、ふさわしい役をつけてほしいとマダムは思う(けど、案外ご本人は、時々は気楽にやりたいからいいんだよ、っていうかもしれないんだけど。でもさ)。
 
 さりげない照明が美しかったし、スタッフがホテルマンみたいな衣装で装置替えしてるのも楽しかった。いい舞台だったわ。

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コメント

私は、常々、コータローさんは御大の舞台じゃない方が魅力的〜って言うか、私が(個人的に)好き〜と言い続けていたのですが、それは藤原君にも当てはまるのかも知れません。横田さんは、すでに証明済みですしね。

マダムの感想読んで、観ても良かったなと思いました。

あ、松井周さんのサンプルは、ハイバイをもっと不条理にしたみたいな芝居をする劇団〜と私は認識しておりますw。

私も急に思い立ってチケット取ったので
平日の夜しか残ってなかったのですが
自分の行ける日が何と初日で!
演者さんやセット変えのスタッフさんの
緊張感がヒシヒシ伝わってきて、それはそれで
とても楽しかったです。
ホテルマン風のセット変え、こんなやり方有るなんてとっても楽しかったです。
カーテンコールは、けっこうあって
最後はスタオベでしたが
椎名さん、ずーっとレイモンドのままでのお辞儀でしたが
最後の最後で椎名さんに戻り、藤原君とお互いをねぎらってました。
良いお芝居を見せて貰ったな〜〜と仕事の疲れも吹き飛んだ夜でした。

ぷらむさま。
ハイバイをもっと不条理に?・・・それはなんかすごいですね。
今回の演出は、びっくりするようなところはなくて、お兄ちゃんと出会って頑なな心が溶けていくチャーリーを順を追って描いてて、オーソドックスでした。
藤原くんは特に、力む演技がないのが、よかったです。

ホワイトさま。
私の時も、カーテンコールになっても椎名さんはレイモンドのままで。3回目でやっと椎名さんに戻っていました。
椎名さん、素晴らしかったですよね!

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