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ネクストシアターの新しい挑戦『ジハード』

 思い立った時にチケットが買えてするりと行ける。ストレスがなくて良い。しかも行けば満席だった。6月23日(土)ソワレ、さいたま芸術劇場NINAGAWA STUDIO。

『ジハード』世界最前線の演劇1
作/イスマエル・サイディ 翻訳/田ノ口誠悟
演出/瀬戸山美咲
出演 堀源起 竪山隼汰 鈴木彰紀 小久保寿人

 難しい芝居なのかと覚悟して行ったけど、全くそのようなことはなく、凄くストレートに響いてきて、面白かった〜。
 観ることが決まっている方は、観てから読んだ方がいいかなぁ。判断をお任せします。


 ベルギーの移民二世の若者たち3人の物語。
 イスマエル(堀源起)とベン(竪山隼汰)とレダ(小久保寿人)は、内戦の続くシリアに行って「聖戦」に参加しようと考え、秘密裏にパスポートを用意し、ベンの車を売って航空券を買う。怪しまれないように行動し、なんとか飛行機に乗り込み、トルコのイスタンブールへ。そこから陸路でシリアに潜入していくのだけれど、待っていたのは、彼らの予想だにしない「戦場の現実」だった…。
 3人は、ごく普通の若者。イスマエルは絵を描くことが好きで漫画家を夢見ていたし、ベンはエルビス・プレスリーにかぶれてアメリカまで行ったことがある。レダは中学生のときから付き合ってきた女の子(イスラム教徒でない)と結婚したいと考えていた。
 でも彼らはイスラムの教えに従い(あるいはその教えを強要してくる周りの圧力に負けて)、絵を諦め、音楽を捨て、恋を諦めるの。イスラム教では絵は偶像崇拝につながるからよくないものとされているし、プレスリーはユダヤ人(アラブ人にとっては敵なのね)だし、親はイスラム教徒との結婚を強要してくるしね。
 かといって、それに代わるような仕事や目標などは得られないの。ブリュッセルでは移民は排斥され、差別されているから。希望のないベルギーでの暮らしが、3人を「聖戦」に向かわせる。最も信心深いベンは「僕たちの目標はこの世の幸せじゃない。死んだ後の次の世界で、天国に行くことなんだ」と繰り返し語るの。希望を奪われてる彼らは、唯一の希望をもって「聖戦」に参加しようとするのね。決して過激な思想ではなく、「同胞を助けたい」という純な気持ちなの。そのために死ぬことで、死んだ後に天国に行ける、という信仰があるわけ。

 だけど、戦場の現実は、3人の気持ちを次々裏切る。爆撃され死んだ妻の亡骸を抱いて泣いているミシェル(鈴木彰紀)に出会い、同情して、3人は埋葬を手伝ってあげるんだけど、そのあとにミシェルがキリスト教徒だと知って、動揺する。俺たちと同じアラブ人の顔をしてるのに、なんでキリスト教徒なんだ?!と。混乱のさなかに、ミシェルは銃撃されて死ぬ。
 その場を逃れた3人は、敵が誰なのかがわからなくなって困惑する。ミシェルは敵だったのか?シリアに攻めてくる外国人が敵なのか?シーア派が敵なのか?スンニ派が敵なのか?・・・そして敵の正体がわからぬまま、飛んできたドローンに撃たれて、ベンが死ぬ。
 残されてレダは「ベルギーに帰りたい、故郷に帰りたい」と本音を漏らす。イスマエルは「ベルギーが故郷なのか?」と反論するけれど、今となってはイスマエルもシリアに来たことを後悔していた。その眼の前で、今度はレダが撃たれて死ぬ。
 
 ここで終わるのかと思ったら、芝居はまだ続きがあり、その続きこそいちばん大事なシーン。
 生き残ったイスマエルはベルギーに帰って逮捕され、刑務所で刑期を終えて、社会復帰しようとするんだけど、そうでなくても差別を受けていた上にムショ帰りの彼には、仕事の紹介所の職員すら門前払いしようとする。追い詰められたイスマエルは体に巻いた爆弾のスイッチを入れようと構える。
 その時、ベンとレダの亡霊がイスマエルの両側に現れるの。
 ベンは「スイッチを入れろ」と言う。それが正しい、信仰を貫くんだ、と。
 レダは「やめろ」と言う。そんなことしても何にもならない、みんな敵なんかじゃないんだ、憎しみの連鎖を断ち切れ、と。
 2人の言葉が両方ともイスマエルの心をとらえ、彼はスイッチに手をかけたまま慟哭して・・・芝居は終わる。
 
 
 劇場はさい芸の大稽古場。後ろに縦長のスクリーンが一枚あるだけのセットで。スクリーンにブリュッセルの空港や、イスタンブールの町や、瓦礫だらけの戦場の写真を写すと、空港や戦場になる。もうメチャクチャ簡単なセットなのに、そこに当たる密やかな照明と、的確な演技とで、ちゃんとその場所になるのよ。
 ストーリーを説明すると、政治的なメッセージが前面に出てる感じになるけれど、芝居は全然そんなふうじゃなくて、イスマエルとベンとレダという名の若者たちがどんな人なのか、を会話の中で少しずつ描き出していくの。それぞれ気のいい青年たちで、生真面目だったり、こだわりが強かったり、だらしなかったりするところが、なんとも魅力的。愛すべき一人一人の人間であって、「移民」だとか「イスラム教徒」だとかましてや「テロリスト」だとかいう枠で捉えることは到底できはしない。そんなふうに造形した演出と、役者さんたちの演技が、とても真摯で、見事だった。
 
 マダムはね、これが遠い国の遠い人たちの物語だとはとても思えなかった。自分の中に、イスマエルたちを追いやってしまうような部分と、イスマエルたちのように周りから圧力を受けて苦しい部分と、両方があるよ。居場所を奪われていくような感覚も。
 そう思わせてくれることが、なによりも日本人の肉体でこの戯曲を演じた意味だよね。

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芝居レビュー 」カテゴリの記事

コメント

良い作品になると確信してたけど、想定より
楽しく笑いのいっぱいの芝居でしたね。
若くて流されてゆく若者を若い役者たちが魂込めて
演じてくれて、凄く良かったです
日本なら無差別殺人、オウムや信仰宗教に走るでしょう
これは是非続けてやって欲しい作品です
待ち望んでたネクストの芝居!期待以上です。
嬉しい!

かおりママさま。
よかったですね〜。瀬戸山さんという演出家も、私は初めてだったんですが、奇をてらわずに真摯で的確で、この本にぴったりな演出をしてくれました。
蜷川さんを失ったネクストに、新しい演出家との出会いがあって本当に良かったし、これが続くといいな。

こんにちは。
マダムとは逆で、千秋楽を観ました。
日増しに評判を呼んだようで、最終日には、階段全部にクッションを置き、当日券客に対応していました。

演出家と俳優陣が脚本と真摯に向き合い、物語に血肉を与えていました。シリアスなのに笑う場面が多く、登場人物の誰もが普通の青年であることが伝わってきました。そんな
等身大(と言っていいのかな?)の役柄が、ネクスト・シアターの役者にぴったりでした。

これからもネクスト・シアターの活動から目が離せそうにありません。

Mickeyさま。
ほんとに日増しに盛り上がっていったようで、よかったです。素早くブログ書いた甲斐もありました。
やっぱり、いい本に出会うこと、いい演出家に出会うこと、これしかないよ、と思います。ネクストだけじゃなく、すべての役者にとって、そうなのよね。

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