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2018年6月

ネクストシアターの新しい挑戦『ジハード』

 思い立った時にチケットが買えてするりと行ける。ストレスがなくて良い。しかも行けば満席だった。6月23日(土)ソワレ、さいたま芸術劇場NINAGAWA STUDIO。

『ジハード』世界最前線の演劇1
作/イスマエル・サイディ 翻訳/田ノ口誠悟
演出/瀬戸山美咲
出演 堀源起 竪山隼汰 鈴木彰紀 小久保寿人

 難しい芝居なのかと覚悟して行ったけど、全くそのようなことはなく、凄くストレートに響いてきて、面白かった〜。
 観ることが決まっている方は、観てから読んだ方がいいかなぁ。判断をお任せします。


 ベルギーの移民二世の若者たち3人の物語。
 イスマエル(堀源起)とベン(竪山隼汰)とレダ(小久保寿人)は、内戦の続くシリアに行って「聖戦」に参加しようと考え、秘密裏にパスポートを用意し、ベンの車を売って航空券を買う。怪しまれないように行動し、なんとか飛行機に乗り込み、トルコのイスタンブールへ。そこから陸路でシリアに潜入していくのだけれど、待っていたのは、彼らの予想だにしない「戦場の現実」だった…。
 3人は、ごく普通の若者。イスマエルは絵を描くことが好きで漫画家を夢見ていたし、ベンはエルビス・プレスリーにかぶれてアメリカまで行ったことがある。レダは中学生のときから付き合ってきた女の子(イスラム教徒でない)と結婚したいと考えていた。
 でも彼らはイスラムの教えに従い(あるいはその教えを強要してくる周りの圧力に負けて)、絵を諦め、音楽を捨て、恋を諦めるの。イスラム教では絵は偶像崇拝につながるからよくないものとされているし、プレスリーはユダヤ人(アラブ人にとっては敵なのね)だし、親はイスラム教徒との結婚を強要してくるしね。
 かといって、それに代わるような仕事や目標などは得られないの。ブリュッセルでは移民は排斥され、差別されているから。希望のないベルギーでの暮らしが、3人を「聖戦」に向かわせる。最も信心深いベンは「僕たちの目標はこの世の幸せじゃない。死んだ後の次の世界で、天国に行くことなんだ」と繰り返し語るの。希望を奪われてる彼らは、唯一の希望をもって「聖戦」に参加しようとするのね。決して過激な思想ではなく、「同胞を助けたい」という純な気持ちなの。そのために死ぬことで、死んだ後に天国に行ける、という信仰があるわけ。

 だけど、戦場の現実は、3人の気持ちを次々裏切る。爆撃され死んだ妻の亡骸を抱いて泣いているミシェル(鈴木彰紀)に出会い、同情して、3人は埋葬を手伝ってあげるんだけど、そのあとにミシェルがキリスト教徒だと知って、動揺する。俺たちと同じアラブ人の顔をしてるのに、なんでキリスト教徒なんだ?!と。混乱のさなかに、ミシェルは銃撃されて死ぬ。
 その場を逃れた3人は、敵が誰なのかがわからなくなって困惑する。ミシェルは敵だったのか?シリアに攻めてくる外国人が敵なのか?シーア派が敵なのか?スンニ派が敵なのか?・・・そして敵の正体がわからぬまま、飛んできたドローンに撃たれて、ベンが死ぬ。
 残されてレダは「ベルギーに帰りたい、故郷に帰りたい」と本音を漏らす。イスマエルは「ベルギーが故郷なのか?」と反論するけれど、今となってはイスマエルもシリアに来たことを後悔していた。その眼の前で、今度はレダが撃たれて死ぬ。
 
 ここで終わるのかと思ったら、芝居はまだ続きがあり、その続きこそいちばん大事なシーン。
 生き残ったイスマエルはベルギーに帰って逮捕され、刑務所で刑期を終えて、社会復帰しようとするんだけど、そうでなくても差別を受けていた上にムショ帰りの彼には、仕事の紹介所の職員すら門前払いしようとする。追い詰められたイスマエルは体に巻いた爆弾のスイッチを入れようと構える。
 その時、ベンとレダの亡霊がイスマエルの両側に現れるの。
 ベンは「スイッチを入れろ」と言う。それが正しい、信仰を貫くんだ、と。
 レダは「やめろ」と言う。そんなことしても何にもならない、みんな敵なんかじゃないんだ、憎しみの連鎖を断ち切れ、と。
 2人の言葉が両方ともイスマエルの心をとらえ、彼はスイッチに手をかけたまま慟哭して・・・芝居は終わる。
 
 
 劇場はさい芸の大稽古場。後ろに縦長のスクリーンが一枚あるだけのセットで。スクリーンにブリュッセルの空港や、イスタンブールの町や、瓦礫だらけの戦場の写真を写すと、空港や戦場になる。もうメチャクチャ簡単なセットなのに、そこに当たる密やかな照明と、的確な演技とで、ちゃんとその場所になるのよ。
 ストーリーを説明すると、政治的なメッセージが前面に出てる感じになるけれど、芝居は全然そんなふうじゃなくて、イスマエルとベンとレダという名の若者たちがどんな人なのか、を会話の中で少しずつ描き出していくの。それぞれ気のいい青年たちで、生真面目だったり、こだわりが強かったり、だらしなかったりするところが、なんとも魅力的。愛すべき一人一人の人間であって、「移民」だとか「イスラム教徒」だとかましてや「テロリスト」だとかいう枠で捉えることは到底できはしない。そんなふうに造形した演出と、役者さんたちの演技が、とても真摯で、見事だった。
 
 マダムはね、これが遠い国の遠い人たちの物語だとはとても思えなかった。自分の中に、イスマエルたちを追いやってしまうような部分と、イスマエルたちのように周りから圧力を受けて苦しい部分と、両方があるよ。居場所を奪われていくような感覚も。
 そう思わせてくれることが、なによりも日本人の肉体でこの戯曲を演じた意味だよね。

新派『黒蜥蜴』再演を観る

 11時半始まりって、ちょっと早いよね。6月16日(土)午前の部、三越劇場。

六月花形新派公演『黒蜥蜴』全美版
原作/江戸川乱歩 脚色・演出/齋藤雅文
出演 喜多村緑郎 河合雪之丞 春本由香 伊藤みどり
   秋山真太郎 今井清隆 ほか

 昨年観て面白かったので、再演をまた観に行ってきた。昨年のいつだったっけ?と振り返ったらきっちり1年前の6月17日(土)だったのよ(レビューは→ここ )。
 初演は、新派としてかなりの冒険であったらしい。でもそれが好評だったので、この再演があるわけだし、11月には新橋演舞場で『犬神家の一族』をやることになってる!いい企画ね〜、めっちゃ楽しみ。

 再演といっても、攻めの姿勢は変わらなかったので、それも嬉しかった。基本的な筋立ては全く同じだけど、より客を喜ばせようという工夫が詰め込まれ、パワーアップしてた〜。
 なかでもいちばん増えたのは、主演の明智小五郎役の喜多村緑郎の色気!
 初演時のポマードで撫でつけた髪型をやめて、パーマをかけた(?)クルッとした巻き髪にしていたし、白塗りを限りなく薄くして、自然な感じに。新派のしきたりから更に一歩踏み出したの。そうしたら素敵さ倍増。登場の瞬間からただならぬ色気がダダ漏れていて、マダムはちょっと倒れそうになった。
 殺陣のシーンも増えていて楽しかった。宝石「クレオパトラの涙」を手にした黒蜥蜴を追って警察と盗賊たちと明智の部下が入り乱れてのシーン、明智小五郎の大立ち回り。そしてなぜか何度も着替える(見世物小屋に逃げ込む設定だから、まあおかしくはないんだけど)。京劇風の殺陣の時は京劇風の衣装に着替えてくれてて(しかも似合う)、そういうところサービスが行き届いてるね〜(去年も言ったけど、劇団新感線と通じるところがあるよ)。脇を固める役者さんたちも歌舞伎の訓練を積んだ人たちだから、動きの良いこと。
 立回りのあと黒蜥蜴と二人きりになって、明智は結局彼女を逃がしてあげるんだけど、初演時はこのシーンで、敵同士の二人の間でシンパシーを確認する程度だった。それが今回は、なんと明智は黒蜥蜴にキスしちゃうんだよ〜。踏み込んでる、踏み込んでる。
 
 黒蜥蜴役の河合雪之丞は変わらぬ美しさ。どんなに派手な着物もドレスも似合っちゃう。そして宝石商の令嬢役の春本由香は、初演の時のぎこちなさが完全に払拭されて、すごく上手くなってた。歌も上手かったよ。
 刑事役が昨年は永島敏行だったのが、今年は今井清隆になった。なので役の設定も銭形警部風から、洋行帰りのキザな刑事に変更されて、歌ったり踊ったり、ピアノを弾いたりしてくれた。サービス満点。
 
 全美版と銘打ってたんだけど、全美っていうのは完璧!と言う意味だそうで。明智と黒蜥蜴の悲恋物語に焦点をキッチリ合わせて、ほんとに完璧ないい芝居だった〜。黒蜥蜴相手に恋に落ちた明智に、観客が(ていうかマダムが)恋に落ちたんだった。
 
 学生の頃(ってどんだけ前よ)、女形と女優が同居する新派という芝居に対してどうも馴染めない感情を持っていたの。でもそれからン十年経ち、男女の壁なくいろんな役をやる役者たちも見慣れたし、そのあたりには何の抵抗もなくなった。面白い芝居を、そして真実のある芝居を観せてもらいたいだけよね。

 公演期間中ほぼ毎日2公演なんだけど、平日も11時半始まりと15時半始まりなの。歌舞伎仕様なスケジュールだけど、これ観られるの、ホントに有閑層だけね。マダムがここでどんなに宣伝しても、大抵の友人たちは働いているから観られないよ。平日の夜の回数をいくつか増やすことを考えてほしい。本当に新派が生き残りたいのであれば。

『アイヌ オセロ』を観る

 ここのところ中央線利用率が高くなってる。6月9日(土)ソワレ、国際基督教大学ディッフェンドルファー記念館、東棟オーディトリアム。

シェイクスピア・カンパニー『アイヌ オセロ』
作/ウィリアム・シェイクスピア 脚本/下館和巳、渡邉欣嗣
共同演出/秋辺デボ、下館和巳
出演 犾守勇 石田愛 香田志麻 加藤㮈紀 中野莉嘉 ササキけんじ
   水戸貴文 及川寛江 藤井優 増田寛子 千葉絵里奈
 

 シェイクスピア・カンパニーという劇団については以前から、なんとなく聞いてはいたのね。シェイクスピア作品を東北に置き換え、台詞も東北弁で演じる劇団だということで、活動の本拠地は仙台らしい、と。
 ひょんなことから仙台在住の役者さんと知り合いになって、今回の東京公演に行ってみることにしたの。
 東北弁、わかるかなぁと少し不安だったんだけど、それは全く問題なかった。むしろ、東北弁が生き生きと伝わってきて、楽しかった。
 
 『オセロー』の舞台を幕末の仙台藩に移し替え。蝦夷地(北海道)をロシアの侵略から守るために仙台藩は、アイヌの男を将軍としてとりたてている。それがオセロ(オセロー)で、妻デズマ(デズデモーナ)は仙台藩の武士の娘。ヴェニスにとってのムーア人を、仙台藩にとってのアイヌ民族に置き換えていて、その辺なかなか上手いよね。
 オセロははっきりそれとわかるアイヌの民族衣装を着ていて、デズマも最初のシーンでアイヌの衣装を着せられ、マタンプシというアイヌの刺繍入りの鉢巻を額に巻かれてオセロの妻となる。そのマタンプシが例の誤解の刺繍入りハンカチの代わりとなる。道具立てはバッチリ。
 
 役者さんたちは女性が多いので、仙台藩の武士は殆ど女性が男役をしていて。台詞は声量も滑舌も良くて、こちらにちゃんと届くのだけれど、やっぱり女性が男役をやるにあたっては何か演出上の工夫が必要なのではないかしらね。男っぽく演じることで手一杯になってしまう。そのせいもあって、仙台藩側のリアリティが相対的に下がってしまってる。役の立場は説明できているのだけれど(たとえばデズデモーナの父親だな、ってことはわかる)、その人らしさまで演技で出せてはいない(娘を愛しているのか、所有物として、取られたから怒ってるのか、取った男がアイヌだから怒っているのか、どう気持ちを収めたのか、がわからない)。
 演出にアイヌの秋辺デボを迎えているので、アイヌ側の描写は凄くしっかりしている。アイヌの踊りや衣装は見応えがあるのだけれど、そのアイヌを差別しながらうまく利用している仙台藩側の描写が薄い。具体的な描写が足りないの。アイヌに対する差別感情の描写もね。それがとても残念。だって、設定の置き換えがこんなにうまくいっているのだから、もっと驚くような面白いものができたと思うし、差別というものの正体にも迫れたと思う。
 たとえば。デズデモーナが仙台藩士の娘ならば、最初の姿はいかにもな日本髪や着物姿がよかったんじゃないかな。それを脱いで、アイヌの衣装に着替えれば、デズデモーナの並々ならぬ決意がそれだけでわかるでしょう? エミリアの衣装もよくわからなかった。彼女はどっち側の人なんだろう?
 イヤーゴーが内地人とアイヌの混血、という設定は台詞に出てきて、面白い発想だとは思ったのだけれど、それは、仙台藩側の差別感情を描き切れてこそ生きる設定なので、不発だった。
 
 役者さんたちはみな、台詞については凄く訓練していて、東北弁の台詞もよくわかったの。一方で、他の人の台詞に対する反応が弱い。自分の台詞がない時もその役で居られるかどうかがとても大切なことで、芝居を面白くするのはそこだから。
 オセローは威厳があって、強いが不器用な武人らしかった。自信がある時と、嫉妬で狂っている弱さとの、落差がもっとほしかったな。
  イヤーゴーはなかなか面白かった。東北弁で不満やら妬みやら悪口やらをタラタラと聞かされると、ホント可笑しくて。イヤーゴーって魅力的な役だって再認識した。

本番こそいちばんのワークショップ 劇団AUN『から騒ぎ』

 チケットを買った時にはこんなハードスケジュールになるとは思っていなかったのだけれど。6月2日(土)マチネ、現代座会館現代座ホール。

劇団AUNワークショップ公演『から騒ぎ』
作/ウィリアム・シェイクスピア 翻訳/小田島雄志 監修/吉田鋼太郎
演出/長谷川志
出演(B組) 杉本政志 岩倉弘樹 松尾竜兵 山田隼平 橋倉靖彦 星和利
   河村岳司 砂原一樹 松本こうせい 飛田修司 池谷駿 桐谷直希
   齋藤慎平 悠木つかさ 水口早香 近藤陽子 宮崎夢子

 昨年から始まったAUNのワークショップ公演。
 昨年夏の『間違いの喜劇』の時は、ほぼほぼ若手のみの公演だったのだけれど、今年の『から騒ぎ』はベテランもかなり参加していて、本格度が増していたの。舞台は幾つかの植え込みが置かれているだけのシンプルな装置。植え込みは、壁にも柱にもなり、もちろん植え込みとしても活躍するんだけど。
 『から騒ぎ』のストーリー説明は今更しないでいいよね。
 
 賑やかなダンスのシーンから始まって、男勝りなベアトリスと自称女嫌いのベネディックの言葉の応酬へ一気に畳み掛けるので、昨年の『間違いの喜劇』と同じように、ずっと笑って2時間を過ごすのかと思ったの。でも、そうじゃなかった。
 『から騒ぎ』ってのは、ほんとに喜劇なのかしら?
 と、考えちゃうくらい、シリアスなシーンは凄くシリアスだった。
 まあ、そう言いながらもマダムは3分の2くらいは笑ってたんだけど。でも残りの3分の1は、胸詰まる思いで見つめてしまったし、最後ちょっと泣けてきそうだった。その重みはかなりのもので、今回、長谷川演出はこの3分の1の側を重点的に仕掛けていたと思われるの。
 例えば照明の当て方が顕著だった。普通のシーンでは全体に明るく照明が当たってるんだけど、悪役ドン・ジョンが出てくると分かり易い程暗くなって、悪巧みのシーンを演出する。最後の方のヒーローの葬儀(ホントは死んでないんだけど)のシーンでも照明を全て消して、参列者の持つろうそくの灯りだけで演技し、鎮魂歌が歌われる中、墓の前に佇むクローディオだけにゆっくりとスポットが当たっていくのも、台本に書かれてるシリアスな部分はちゃんとシリアスに、という演出方針だったのかも。
 だから、笑って始まり、最後は笑って終わる…んだけれども、一言で喜劇といってしまうのは躊躇する、沢山の感情が押し寄せてくる舞台になっていたの。
 
 主役の四人の若者達の描き方が、とても丁寧で良かった。ベアトリス(水口早香)はまるで『じゃじゃ馬馴らし』のキャタリーナのように始まるのだけれど、従姉妹のヒーローが陥れられた時には、ヒーローのために自分の身を捨てても徹底的に献身する。その両面がちゃんと一人の人物の中に矛盾なくあるのが感じられたの。
 ベネディック(山田隼平)は、さらに多面的で。女嫌いの状態から始まり、ドン・ペドロたちの策略に引っかかってあっさり恋に落ちるハイテンション、おバカな状態を経て、ベアトリスのヒーローへの思いに打たれてクローディオに決闘を申し込む凛々しさまで、あらゆる顔を見せてくれた。地はイケメン枠ではないと思うけど、決闘を申し込むところはちゃんとイケメンに見えるからね。役をとことん演じきると役者はみんなイケメンになる。
 一方、クローディオ(松尾竜兵)は地のイケメンを大いに生かして、一本気な青年を演じてた。愛したヒーローを嘘を信じたせいで拒絶し、憎み、死なせ、嘘だったとわかると、死ぬほど後悔して嘆く。松尾クローディオを見ていたら、マダムは突然『冬物語』のリオンティーズだ!と思ったの。リオンティーズが20年くらいかけて到達する憎しみと許しと喜びを、クローディオはほんの数日で駆け抜けるんだね。若いから身体がもつんだよ、と妙に所帯染みたことを思ってしまうマダム。
 そしてヒーロー(悠木つかさ)。彼女は可愛らしい容姿なのでつい若手のように思ってしまうけれど、AUNの中ではベテラン女優で、ホントに上手い人。疑うことを知らない少女がどん底に陥れられ、そこから立ち直ってクローディオを許して受け入れる大人の女になるまで、やはり数日で駆け抜けるんだけれど、彼女が演じると余計な力が入っていなくて、見ているこちらは凄く楽に物語に付いていけるの。最後、ベールで顔を隠してクローディオと相対する場面も、彼女の沈黙だとマダムも余計な力を入れずに待っていられるんだよね。
 
 昨年の『間違いの喜劇』のときも思ったけれど、シェイクスピアの上演の基本は、役者が台詞を言うときは誰に向けてどんな気持ちで言うのか、はっきりわかるように言ってくれること。そして台詞を言っていない役者は全力で、しゃべっている役者に対して反応すること。この、たった二つ。この二つがあれば、面白いシェイクスピアが出来るの。四人の若者たちが恋に落ちたり、苦しんだりするとき、周りにはぎっしり登場人物たちが集まって顔を寄せ合って、一緒に笑ったり憤ったりするから、台詞の意味が何倍にも膨らんで伝わってくる。長谷川演出はちゃんとツボを心得てる。
 
 若い人たちの台詞も全部しっかり聞き取れた。ところどころ力が入りすぎてる箇所もあったけれど。そこは硬軟自在なベテラン勢にまだかなわない。
 
 沢山笑って、楽しかった一方で、『から騒ぎ』の多面的なところも味わえて、とても満足。吉田鋼太郎イズムをしっかり受け継ぎながら、長谷川演出はこれからもっと、長谷川イズムも出していけるのじゃないかしら。ワークショップシリーズ、どんどんやってほしい。

円熟の岩松了『市ケ尾の坂』

 観たい芝居はなぜこうも、上演時期がかぶるのかしら(その3)。6月1日(金)ソワレ、本多劇場。

『市ケ尾の坂』ー伝説の虹の三兄弟
作・演出/岩松了
出演 大森南朋 麻生久美子 三浦貴大 森優作 池津祥子 岩松了

 どんどん溜まっていくので恐ろしいのですが、必ず書きます・・・。とりあえず、観た事実だけメモしました。

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