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翔ぶまで待ちたい『岸リトラル』

 やる側が大変な芝居は、見る側だって大変なのだ。2月24日(土)マチネ、シアタートラム。

『岸リトラル』
作/ワジディ・ムワワド 翻訳/藤井慎太郎
演出/上村聡史
出演 岡本健一 亀田佳明 栗田桃子 小柳友 鈴木勝大
   佐川和正 大谷亮介 中嶋朋子

 
 『炎アンサンディ』が母の物語だとすると、『岸リトラル』は父の物語、かしら?いや、父と息子、の物語だね。
 
 あまりにも圧倒的だった『炎アンサンディ』の記憶(レビューは→ここ )に、身構えながらトラムに向かったのだけれど、身構え方が間違っていたようなの。もっともっと、リラックスして観たらよかった。
 自分の心の中で何かが起きるのを待っていたけど、最後まで起きることなく終わってしまって。芝居が発展途上なのを感じた。でも、そもそも、何かが起きるような芝居じゃなかったのかもしれなくて。その辺、腑に落ちないままなの。

 難民の子として安全な国で育った青年、ウィルフリード(亀田佳明)が、疎遠になっていた父イスマイル(岡本健一)の死を知らされ、遺体を父の祖国レバノンに埋葬するまでのお話(ただし、芝居には一言もレバノンとは出てこない。作家の出身を知っているので、そうだろうなと思いながら観る)。最初は、遺体を国外へ運び出す許可を得るために、ウィルフリードが裁判官か誰かに事情を説明しているシーン。そして許可を得た後、イスマイルの遺品のトランクを受け取って、開けてみると、そこには息子への出せなかった手紙がぎっしり詰まっている。それを読み始めると、遺体が話しだして、父(の遺体)と息子は語らいながら、レバノンを彷徨う。
 メチャクチャ荒唐無稽な話しの運び。父母をほとんど知らず、親類に育てられたウィルフリードは、妄想の中に友達がいて、辛くなると妄想が助けに現れるんだけど、それがアーサー王の円卓の騎士ギロムラン(大谷亮介)の姿をしてるの。
 さらに、ウィルフリードの埋葬の旅を同行取材するスタッフたちが出てくる。これがまた、現実なのかわかりにくい。すごく半端な出方だし。
 遺体は喋るわ、円卓の騎士は出てくるわで、どこからが現実でどこからが夢なのか判然としないの。それでいいのなら、いいと思いたかったんだけど、思えなかったのよ。なにか、立ち上ってきてほしかったんだけど!
 やっぱり始めのうちはもっと現実らしく始まったほうがよかったんじゃないのだろうか・・・そもそも棺が舞台の上に垂直に立ってる状態で現れるのがもう、現実らしくないので、これが演出の狙いなのだろうけれど。で、夢(悪夢も)のほうは夢のほうで、軽みというか浮かび上がる感じがあまりないの。舞台全体がずっとモノトーン(実際の色ではなくて、基調が)。
 
 レバノンに着いたウィルフリードは父の遺体を入れた籠を背負い、埋葬にふさわしい場所を探して、歩き回る。ウィルフリードは父と母の出会いや、自分が生まれた時のことをやっと知ることができる。旅の途中、現地の若者がひとり、またひとりと、旅に加わる。みんな、父や母を亡くしている。内戦の最中、父と気付かずに父を殺してしまった青年もいる。皆、傷を負っている。彼らはウィルフリードの旅に自分たちを重ね合わせ、イスマイルの埋葬を、自分たちの親の埋葬のように思って旅を続け、やがて海にたどり着く。このくだりは内戦への鎮魂がこもっていて、とてもいいの。一方で、その過程でウィルフリードが解放されていくようには見えない。ウィルフリード自身の鎮魂の旅でもあるのに、彼の変化の表現が足りない。
 ウィルフリードは岸辺で、父の遺体に重りをつけ、海に葬る。
 このシーンはクライマックスだと思うし、腐敗し始めた遺体を水で洗うシーンは、青い塗料を塗りつけるという実験的な演出だった。だけど、弾けないんだよね、なぜか。
 レバノンの岸辺といえば、地中海なのよ。もっと残酷なくらい光がまぶしく、青さも明るくて、そこに沈んでいく・・・みたいなカタルシスがほしかった。何が足りなかったのか・・・そうなるには、もう少し稽古(逡巡)の時間があったほうがよかったのかもしれないわ。
 
 それにしても岡本健一と中嶋朋子はやっぱり百戦錬磨だ。この二人があと何人かいてくれたら・・・とチラリと思ってしまったのは、言わないほうがよかったかしらん・・・。

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コメント

僕は翌日に観ています。
矢張り、本作はムワワドさんが翔ぶ前の作品なのでしょう。顔料塗りたくり演出はSPACで『火傷するほど独り』2008で観て居ますが、破綻無く、効果的に見えました。
多分Septがやるであろう約束の血四部作後半二作に期待してます。

叡さま。
確かにホンの出来がイマイチだったのかもしれません。若書きというのか、とっちらかった感じ。
そのせいか、テンポもかなり悪かった気がします。
色々と、詰めきれずに開幕を迎えた感がありました。
後半二作、やるかな?

「炎アンサンディ」があったので、すごく気になっていたんですが、なるほど。

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