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マンガのページをめくるような『プルートウ』

 蜷川芸術監督がいなくなってから、とんと行かなくなってた、シアターコクーン。1月16日(火)ソワレ。

『PLUTO プルートウ』
   鉄腕アトム「史上最大のロボット」より
原作/浦沢直樹✖️手塚治虫 上演台本/谷賢一
演出・振付/シディ・ラルビ・シェルカウイ
出演 森山未來 土屋太鳳 大東駿介 吉見一豊
   吹越満 柄本明 ほか9人のダンサーたち。

 今年の観劇初め。
 昨年の初演の評判が良くて、観たいと思ってたの。テレビで中継もやってたんだけど、チラッと見て、あ、これは絶対ナマで観るべき、と直感して消してしまったくらい。そして、初演よりさらにバージョンアップしてるという話だ。
 演劇が、贅沢な総合芸術だってことを思いっきり味わわせてくれる、刺激的な舞台。
 身体能力ハンパない9人のダンサーが黒子的な役割を果たすんだけど、それが、見たことのないような美しい動きの黒子なの。組み合わせると大きな平行四辺形になるいくつものパネルをキビキビと動かして、次々と場面転換していくんだけど、それがマンガのコマ割りを彷彿とさせ、マンガのページをめくっていくような気持になる・・・。
 さらにアトム(森山未來)やゲジヒト(大東駿介)やその妻ヘレナ(土屋太鳳)たちロボットのロボット感を出す役割も、ダンサーたちが務める。例えば。ロボットが洋服のボタンを留めるとき、人工知能が「ボタンを留めるぞ」と決め、そのために「手をこう動かすぞ」と命令を下し、手がそのように動く(かすかにピー、カシャと音がするような)・・・その一瞬の神経の流れを、周りにいるダンサーたちが表現するの。演じる役者一人の演技だけに、ロボットらしさを背負わせない。周りのダンサーの何本もの手や足がロボット役の体に沿ってうごめき、役者の動きより一瞬早い命令系統の流れを、しなやかに表現してみせる。こんなの、見たことない!どうすればこんなことができるの? もうやみつきになって、ゲジヒトがシャツを着るシーン、20回くらい繰り返されてもいいと思った。
 
 そして気が付いたのだけど、ダンサーたちの動きは、マンガの表現を舞台の表現へ転化した稀有な瞬間。これまでもマンガ原作の舞台は数々あれど、原作のストーリーと人物の性格を写し取ろうとしたものばかり。でもこの『プルートウ』は、ストーリーだけじゃなく、マンガの表現を、舞台の表現に転化しようとして、成功しているのよ。
 マンガの、人物の外側の空間がゆがんだり暗くなったり、心の中のきしみが擬音となって(ゴゴゴゴーッとかボボボボーッとかゾワゾワとか、etc)飾り文字で描かれたり、マンガ独自の表現があるでしょ?人物の絵以外の部分が実はとても重要。そこのところを、ダンサーが担って表現してるの!こんなこと初めてよ。シェルカウイ、すごーい。
 
 圧巻はアトムが空を飛ぶ(当然だ、アトムなんだから)ところ。アトムが飛ぶシーンはね、「アトムになったつもりの3歳児をお父さんとお母さんが持ち上げて飛ばせてあげる」みたいな、超ベタなやり方なの。それなのに、森山未來とダンサーたちがやると、ホントにバビューンって飛んでいくんだよー。同じ人間とは思えない。
 巨大ロボットプルートウも、ダンサーたちが操るんだけど。『戦火の馬』のパペットに負けてなかった。死んでいくプルートウがひどく悲しそうに見えた。
 
 役者さんたちはみんなよかった。特に、もちろん森山未來、本領発揮。そして、テレビの演技があまり好きじゃないのでどうかしら、と思っていた土屋太鳳が、顔じゃなくて体全体で演技するととても魅力的なことに気づいた。

 少しばかり冗長なところがあると思ったけれど、それは芝居のせいというより、原作のせいなのではないかしら。『プルートウ』は読んでないけど、浦沢直樹のほかの作品はどれもちょっとずつ冗長だとマダムは感じたおぼえがある。溜めがありすぎるの。そこが好きって人もいると思うけど。
 そういう意味でも、実に原作に忠実な、画期的な舞台だった。
 

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コメント

前回観たので、今回は見送ったのですが、私、ゲジヒトさんの妻(永作博美)が、ゲジヒトが死んだ時に「情報量が多すぎて処理できない」って悩むところが好きでした。
ロボットだから「悲しむ」っていう感情がないので、どうして良いかわからないのね。
御茶の水博士だったかに「そういう時、人間は泣くんだよ」って教えられて、「真似で良いからやってごらん?」って勧められて。
半信半疑で「あー?うー?」って泣き真似して、何度か繰り返したら、不意に情報が理解できて、本気泣きになるところで貰い泣きしそうになりました。
・・・・語り出すと長いので、詳細は2015年1月の私のmixi日記をご覧あれw。

ぷらむさま。
ぷらむさんの日記、読んできました。それによれば今回、初演とあまり変わってない印象ですね。
泣き方を教えられるシーンは、もしかしたら永作さんの方に一日の長があったかも。
そしてこれこそ、中継録画じゃ、凄さの一割くらいしか伝わらない。まさにナマモノでした。

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