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議論沸騰の『怒りをこめてふり返れ』

 久しぶりの平日夜の観劇。最近、夜公演自体が減ってるね。7月28日(金)ソワレ、新国立劇場小劇場。

『怒りをこめてふり返れ』
作/ジョン・オズボーン 翻訳/水谷八也
演出/千葉哲也
出演 中村倫也 中村ゆり 浅利陽介 三津谷葉子 真那胡敬二

 最近は、芝居のための予習をほとんどしなくなったマダム。怠けているわけではなくて、わざとなの。
 だって、演劇のお約束のようなものはもう心得ているし、大抵のストーリー展開にはついていけるし、あらすじのようなものは「読まなければよかった」と思うことが多いし。芝居が始まって、そこから受け取れることが全てなんじゃないのか?という思いが強まっているの。なんか色々お勉強していかなくちゃいけないなんて、間違ってる、と思ったりするのよ。パンフレット読まなきゃ感じ取れない芝居なんか言語道断!
 なので、今回も、前日まで何もせず、感想のツイッターなども一切見ないようにしていたんだけど、それでもやっぱり難しいらしい・・・という感想は聞こえてしまって、慌てて、友人に「予習が必要?」と訊いたの。そしたら、1950年代のイギリスが舞台で、大学は出たけれど下層階級の出なので色々うまくいかず、怒ってばかりいる男ジミーのお話だ、と教えてくれたの。
 それで、十分だったよ。別段、ほかに必要な知識などない。演出さえ、行き届いていさえすれば。

 とある町の、とある屋根裏部屋。ジミー(中村倫也)は、妻アリソン(中村ゆり)と、同じ下層階級の出の友人クリフ(浅利陽介)との、奇妙な共同生活をしている。ジミーは政治にも宗教にも、あらゆる社会情勢にも、自分が今読みたい新聞をクリフが読んでいることにも、妻が疲れた顔をしていることにさえも、激しく怒り、常に罵り続け、生活は殺伐としているの。アリソンは中産階級の家の出で、ジミーと恋に落ちて駆け落ち同然で結婚したのだけれど、ジミーはどんな仕事も長続きせず、今はキャンディの屋台で稼ぐのみで、先が見えないの。アリソンは妊娠したことさえ、ジミーに打ち明けられずにいて、そんなこととは知らないジミーは苛立ち続けてアリソンを追い詰める。だけど、クリフはそんなジミーを飄々と受け流し、アリソンのことを慰め続ける。クリフが緩衝材となって、ギリギリのところで破綻を免れているのね。
 そこへアリソンの友人ヘレナ(三津谷葉子)が訪ねてきて、危ういバランスは一気に崩れていく。アリソンの窮状を見かねて、ヘレナはアリソンの実家に連絡を取り、疲れ果てたアリソンは父親に連れられ、家に帰っていく。けれど、口実を設けて居残ったヘレナはジミーに言い寄り、アリソンのいた場所にまんまと居着いてしまうの。しかし今度はクリフがその生活に嫌気がさし、出て行こうとする。
 そんなとき、子供を流産したアリソンが、屋根裏部屋を訪ねてくる。ジミーとアリソンは希望のない真っ暗な状態で、それでも互いが必要だと抱き合う・・・。
 というようなお話。

 とにかくずうっと怒って、怒鳴り散らして叫んでるジミー役の中村倫也と、どんなときも飄々としているクリフ役の浅利陽介が素晴らしいの。この芝居の面白さは、二人に支えられてた。特に、中村倫也。彼ほど演技の幅が広い役者はなかなかいないよ。怒れる若者も、可愛く賢い女性も、骨太の新劇も、ふざけたコメディも、なんでもござれね。ジミーはしょっぱなから最後までハイテンションで怒っていなければならないから、尋常じゃないエネルギーが必要なんだけど、中村倫也はそれを惜しげもなく放出していて、もうそれはそれは苛々させられたの(←褒め言葉!)。彼のエネルギーがなかったら、この芝居は散々なものになっていたでしょう。

 というのも、面白く見られたのは中村倫也のエネルギー放出のおかげがほとんどで、演出的には色々と首をかしげるところがあったからなの。
 最初、奥行きのある屋根裏部屋のセットを前にしてマダムは、「あら素敵な部屋」と思ってしまったんだけど、これがまず✖️よね。話が進むにつれ、おかしいな、と思ったの。キャンディの屋台でどれほど稼いでいるのか知らないけど、あんな広々した部屋に住んでちゃ、リアリティがない。仮に当時のイギリスの下層階級はあの空間に住んでたのが本当だとしても、演劇的リアリティとしては、もっと狭くてもっと息苦しくてもっと圧迫感があって、「こんなところで怒鳴られたら逃げ場がない」と思うような空間じゃなきゃダメじゃん? 「こんなところで夫婦+友人で住んでるの?うそでしょーっ?」と感じられなきゃいけないんじゃないかしら。
 セットのみならず、リアリティがないな、と思うところが続出だったんだけれど、特に感じたのは、女優さんたちの衣装、そして細かな演技ね。アリソンの衣装は、何年もジミーと暮らして困窮している人の服ではなかったわ。実家から持ち出した服だとしても、もっと経年変化がなければおかしいし。化粧品やバッグなども、そう。小道具ひとつひとつが考えられて、揃えられたのかしら?これは実家から持ってきて、大切にしまいこんであったもの。これは実家から持ってきて、使い込んですっかり古くなってしまったもの。これはジミーの少ない稼ぎからやっと買えたもの。全ての衣装と小道具が、そうやって揃えられるべきだし、そういうものたちが物語るリアリティってものがあるでしょ?
 セットも衣装も小道具も、この物語を支えていない。
 演技も。屋根裏部屋だから水道がきていなくて、水を運んでこないといけないらしき台詞があったような気がするんだけど、だとしたら、お茶を飲んだ後の洗い物はどこでしているのか、洗濯はどこでしているのか(それはいちいち大変なはず)。それは舞台上には見えなくても、演出家は知っていなければいけないし、それに従って、役者は演技しなくちゃいけない。
 そして舞台の上で象徴的な役割を果たしているアイロン! アリソンもヘレナもアイロンをかけるシーンが長々とあるのに、それがすごく無意味になっちゃってる。一体、誰のために、なににアイロンをかけているのか、マダムは一番後ろの席だったからわからなかったんだけど。あんな風に表面を撫でてるだけでアイロンがかかるのは、最近の性能のいいスチームアイロンであって、一昔前のアイロンはすごく重くて、その重みの上に更に自分の体重を乗せてかけるものでしょう?だからアイロンがけは重労働なわけだし、実家にいた頃はやったこともなかったアリソンが、疲れ果てながらアイロンかけてるから、意味があるんで。そのことがさらにジミーを苛立たせるんでしょう?
 それが、軽々とアイロンがけしてて、全然大変そうじゃないんだもん・・・物語を支えていないよ。
 
 中産階級の苦労知らずのお嬢さんだったアリソン。でも彼女はそんな自分を心のどこかで疑っていた。自信がなかった。だからこそ、下層階級の怒れる若者ジミーに惹かれてしまう隙があったわけだし、恋に「墜ちて」しまう。でも代償は大きくて、今や彼女は疲れ果てている。そしてジミーは、彼女をそんな風にしてしまった自分にも苛立ち、彼女にも苛立ち、先が見えない未来にも苛立っている。
 そういうことなのよね?だけど、ジミーの方は描かれていたのに、アリソンの描かれ方はピントがずれていて、焦点を結んでいなかった。
 男たちの演技にはリアリティがあり、女たちの演技にはリアリティがなかったの。だから、もっと面白くもっと刺激的になるはずだったのに、そこまで行けなかったの。
 それでも面白い芝居だった。書き込まれた本と、主役のエネルギーが、刺激的だったし。見終わった後、友人と議論沸騰したし。それはやっぱり、面白かったってことだよね。
 

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コメント

意外と早かったですね(笑)。

そうなんですよ。これ、男優陣の頑張りには素直に拍手しますけど、
演出が物語と会ってない気がしました。

自分の感想にも書きましたし、マダムの感想にもありますが、
まずは、部屋が広すぎる、別室があるのが納得できない(セリフに「下の部屋」とか「クリフの部屋」とかいう部分があったので、戯曲指定かも知れないけど、これはやっぱり一部屋に3人住んでいてこそ!の苛立ちだと思うんですよねぇ。

アイロンのかけ方に時代考証がなされていない、洗濯やお茶を淹れることの裏にあるものが考えられていない、アリソンの持ち物が綺麗すぎる(化粧品も多過ぎ)、この人たちが、キャンディー屋台で、どのくらい稼いで、生活費はどのくらいで、どのくらい自由になるお金があるのか、その辺が見えて来ない・・・・などなど。

ジミーの怒りの放出にイライラし(こちらは褒め言葉)、演出の足りてない部分にイライラし、両方でイライラしちゃいました(笑)。

ぷらむさま。

私は最初アリソン役の女優さんの演技がダメなのかな、と思ったんです。でも芝居が進むにつれて、ジミーの方は怒りの根拠を演出で与えられているのに対し(あるいは中村くんが自分で理解した)、アリソンの方は演技の根拠が明確じゃないんだな、と腑に落ちて。
クリフはシャツを1枚しか持っていないと言っていて、事実その服でずっと舞台にいたんですし。どうして女性の方になると、急に根拠がいい加減になるのでしょうね。
なぜこの衣装なのか、なぜこのバッグなのか、なぜこの部屋なのか、なぜこの食器なのか。全部理由があるはずなんですよね。
中村倫也くんの凄いパワーがあったのだから、女性たちの演技に明確な演出がされていたら、びっくりするような作品になったんじゃないでしょうか。惜しいです。

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