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新鮮な刺激 新派公演『黒蜥蜴』

 この劇場は30年ぶりくらいかしら?(以前観たのは杉村春子主演の『金色夜叉』だった。)6月17日(土)午前の部、三越劇場。
 

六月花形新派公演『黒蜥蜴』
原作/江戸川乱歩 脚色・演出/齋藤雅文
出演 喜多村緑郎 河合雪之丞 秋山真太郎 春本由香
   伊藤みどり 田口守 永島敏行 ほか

 某俳優が来年明智小五郎をやるらしい。マダムはどうもしっくりこなくて、首を振っていたのだけれど、そんなある日、1枚のチラシに目を奪われたの。それがこの新派公演の『黒蜥蜴』だったんだけれども、とにかく、マダムの思うところの荒唐無稽でまがまがしい(そしてワクワクする)江戸川乱歩の世界を実にキッチリ表現している写真だったから。マダムはその場で「こっちの方が断然観たーい!」と叫び、30年ぶりの三越劇場来場の運びとなった。
 大学時代に日本の近現代演劇史をかじったので、新派がどんな風に生まれたのかはなんとなく知っていて、テレビの中継映像などでも水谷八重子や波乃久里子の舞台を眺めたことはある。だけど、ちゃんと生で観たのは初めてかもしれない。ただ、チラシが、どんな舞台なのかを余すところなく伝えてくれていたから、想定外とか期待外れとかは全然なくて。改めてチラシの大事さを思い知ったわ。どんな舞台なのか、わかんないの、最近多いもの。それに比べ、この新派のチラシは、世界観を明確に表していて、えらい!
 
 お話はみんなが知っている「黒蜥蜴」なので、説明はいらないよね?
 
 新派をこれまで観なかったのは、やはり戯曲が古そうで、耐える女がいっぱい出てきそうだったから。それを芸にまで高めているのは重々承知だけれども、耐える女が美化されているのをマダムはわざわざ観たくないの。
 そこいくと「黒蜥蜴」には耐える女は出てこないし、強くて美しくて悪い女が主役で、しかもそれを追うイケメン探偵は、女盗賊と恋に落ちてしまう・・・あー、なんていい話なんだ。そうこなくっちゃ。
 女盗賊黒蜥蜴を演じるのは河合雪之丞。先代猿之助一門の女形だった人で、最近新派に入団(?)したのだそう。とにかく歌舞伎の女形をやってきた人の着物姿の美しさといったら!着物着て立ってるだけなら、普通の女優さんだって綺麗だけど、これだけ動いて美しいのって、さすが女形。信じられないような派手な着物(だって、全部にスパンコール縫い付けてある着物なんて、新感線でもないかも)なのに、下品にならない。そして、色っぽい。
 かたや明智小五郎を演じるのは喜多村緑郎。彼もまた猿之助一門から出た人なのだそう。それで、面白いなあと思ったのはね、たくさん男の人は出てくるけど、白塗りしてるのは彼だけなんだよね。白塗りって言っても、歌舞伎ほどではないんだけど、でも一人だけ肌が白いの。それって、歌舞伎の伝統だよね、主役のイケメンは白塗りっていう。
 その彼がまた、かっこいいの。大時代がかってる、すれすれの演技なんだけれど、なんだろう、しっかりと型がありながら型に寄りかからない、ちゃんとその時を生きてる演技なの。すごく上手い人なんだと思う。そして、彼もまた色っぽーい!
 そんな型も、見せ方も、美しさも華もある二人の主役に、この荒唐無稽なお話はピッタリ。新派という特殊な劇団にもこの戯曲はピッタリだった。途中マダムは時々、いのうえ歌舞伎を思い出した。かなり相通ずるところがあると思うわ。荒唐無稽にサービス精神てんこ盛りで。いのうえ歌舞伎と違うところは、テンポがゆっくり目で、セリフが全部隅々まで聞き取れること。それと、サービスの上塗りをしないこと。
 ほかにも客演の永島敏行(「遠雷」からかくも遠くまで来た・・・)の銭形みたいな刑事とか、春本由香(尾上松也の妹!)のいいとこのわがままお嬢さんぶりとか、秋山真太郎(劇団EXILEってなに?)の演技はイマイチだけどシャープな殺陣とか、見所はたくさんあって、楽しかった。セットも、三越劇場の古めかしくも豪華な造りをうまく利用して豪華だったし、黒蜥蜴の衣装は眼福だったわ。

 なにより良かったのは、敵味方の明智と黒蜥蜴が、どんどん惹かれあって、駆け引きしまくって、互いの死に(黒蜥蜴は一度は明智を殺したつもりでいたから)本気で嘆いてて・・・荒唐無稽な作りにもかかわらず、そこだけは本気が伝わってきて、ジーンとなるの。死んだ黒蜥蜴を抱きしめる明智の、色っぽいことといったら!
 いつも言ってることだけど、演技の上手い人が本当のイケメンなのよ。だって、観客を酔わせてくれるんだもの。再確認したー。
 演目によっては、また新派を観てもいいな。耐える女が出てこないやつ。

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コメント

河合雪之丞が良かったのね。うれしい。彼が市川春猿だった頃のファンです。息子が中学生の時、親子歌舞伎教室に行ったことがあるのだけど、そのときのナビゲーターが春猿さんで、すっかり魅了されました。

芸は達者だし、綺麗だし、しかも茶目っ気もあって、素敵な役者さんです。歌舞伎をやめると聞いてがっかりしていたのだけれど、新派で活躍しているのなら、我慢するわ。

マダムもご覧になったのですね!
私も最近まで、長らく新派はごぶさたでしたが(杉村春子さんが客演を…とか言う話になってしまう)、月之助さん@現·喜多村緑郎が新派に入団したニュースを「お?」と思って注目しだし、入団第1作「糸桜」(河竹黙阿弥の娘の話でした)を観に行ったところ、笑いもまじえた人情劇でなかなかに面白く、マダムのおっしゃる一般的イメージ「耐える女」をいい意味で裏切る内容だったのでした。
そこで、次に「華岡青洲の妻」を観て(これは主役のお嫁さんが、入団したての雪之丞だった)、若い新加入コンビが、これまで2トップだった八重子&久里子と堂々わたりあっているのに感心し、その流れで興味をもって観に行った「黒蜥蜴」は、“新生·新派”鑑賞3作目だったのでした。

かなり摩訶不思議キテレツで、100%完璧ではないけれど、新派を若返らせよう!何か違うことをしよう!という気概が感じられたのがヨカッタです。

狂言回しの刑事@永島敏行(「遠雷」って、マダム、お互い年が割れますわ!)が開口一番「日本最初の地下鉄銀座線に乗って、三越まで来てくれたんだな、ありがとう」というようなことを観客に向かって語りだした時点で、「これはイケる!」と思いましたよ。
あの独特の趣がある三越劇場という存在を、上手に劇に取り入れていましたね。
間口の周りの彫刻を、黒蜥蜴のコレクションに見立てたりとか…。

白塗りの二枚目×女形のカップル、物語の世界観にぴったりでしたねぇ。
私、三島戯曲が好きなので、行く前は「どうして三島台本を使わないんだろう」と思っていましたが、観て納得しました。
「今の新派はこんなことができます!」とショーケース的に“ぶちかます”(?)ためには、このオリジナル台本が必要だったんですね。
様式化された立ち回りや、だんまりのシーンや、果ては京劇まで出てきたのには欣喜雀躍しちゃいました。

さすが老舗劇団、脇もしっかりしていたし、松也の妹さんもよかったですね。
お嬢様に見えない若手女優が多い中、ちゃんとお金持ちのお嬢様に見えていました。

女形が主役を張るという伝統に新派が回帰したことに、歴史はめぐるんだな~と感慨をおぼえ、つい、図書館で花柳章太郎さんの伝記なぞ借りてきてしまいました。

雪之丞さんて、元の春猿さんですよね?
笑也さんに続く歌舞伎俳優養成所出身の真女形として、期待されていた方。
私、彼に売り出しがかかるかかからないかの頃に、青山円形で彼のサロメを
見たことがあって、妙に印象的に覚えています。

そして緑郎さんは、元の段治郎さん(のちに月乃介さん)。
お二人とも、先代猿之助さんが、亡くなって、いろいろ考えることもあったのでしょうね。
名代さんじゃないと、大変だろうし。
新派に入られる〜と聞いたときは、驚いたけれど、これって需要と供給の関係がぴったりあった
幸せな転身だろうな〜と思ってました。
そして、それはやはり、うまく行った!ってことですね(笑)。

私は、新派を2〜3本観たことがありますが、耐える女ばかりじゃなかったですよ。
むしろ、したたかな女たちの舞台でした。

今回、私も新派デビューでした!劇場に入るなり、クラシックな内装がすでに乱歩の世界で、ワクワクして幕開きを待ちました❤演目に合う箱(劇場)で上演するって大事よね。

マダム同様、主役二人の色気とオーラに魅了されました。明智小五郎は喜多村緑郎さんの当たり役になりそうです。

楽しかった❤

Mさんから、DMが飛んで来ました。
先代猿之助さん、現猿翁さんはご存命です。
勝手に殺しちゃった。
後ろ盾がなくなったってことが書きたかったの。
謝罪して訂正いたします。

えっと、コメント欄が荒れとります(笑)。
最初のコメントの方、お名前、書き忘れです。どなたですか?


パイワケットさま。
いや、やっぱり永島敏行ときたら遠雷でしょう?そこからスタートしないと。
日本の近代演劇史を勉強したとき、一番印象に残ったこと。それは、明治以降、劇団ができて一つの型ができると、それを使い尽くして劇団が終わる。時代に即して変化して脈々と続いていく、ってことがなくて、ある時代とともにぱったり終わる、ってことでした。日本の演劇ってそういうところがあるみたい。
でも今回の新派公演を見ると、伝統を生かしつつ変化するぞ、という決意があるように思われました。チラシもキャッチーでした!

ぷらむさま。
いやあ、私ももうぷらむさんだからチェックが甘くなっちゃいました。申し訳ありません。
猿翁さま、大変申し訳ありませんでした。
で、耐える女の話ですけど、耐える女=したたか、の構図も私は嫌だな、と感じることがありまして。もちろん、ケースバイケースなんですけどね。要は、ちゃんと人間を描けてるかってことなんですが。今回の公演で、新派に対する見方がちょっと変わったことは確かです。
 
Mickeyさま。
なかなか楽しかったですね。ご贔屓だけに媚びて作る、というところが全くなくて、それも好ましかったです。
本当に三越劇場がぴったりで。あの大きさも気に入りました。

ごめんなさい。
名前書くの忘れたのは私です。
いつも自分のブログのコメントは記名無しで書けるので、うっかりそのつもりになっちゃって。
失礼いたしました。

サワキさま。
やっぱりサワキさんかー。だと思いました。
雪之丞、素敵でした。歌舞伎だと女形が主演の演目って少ないから、新派の方が活躍できるのでは?
主演二人、オーラがすごかった。

「黒蜥蜴」はひときわキャスティングが大事かな、と。

大昔、テレビで見た若かりし頃の美輪さんと天知茂の明智、
かっこよさが半端ではなく、
「最後に勝つのはこっちさ!」(でしたよね)と背中あわせで大見得を切るところは
しびれました。

美輪さんはそこの振付を微妙に変えていまでも演じていらっしゃいますが、
舞台は見るべき時に見なければ、と思います。

三越劇場、風間杜夫と太地喜和子を見てから36年、足を踏み入れていませんががんばってますね。
日本橋三越本館は物心ついたころからあの建物で、若干怖いですが好きです。
(食堂のプリンも同じレシピのプリンを出していて、老舗おそるべし)

hikaruさま。
そうです、やはり明智は天知茂さんがベーシック。キザが似合い、色っぽさだだ漏れな感じですよね。
三越劇場、大きさがほどよく、間口が広いのが大変良いです。客席数はたぶん紀伊国屋ホール並みだと思うのですが、縦に細長い紀伊国屋ホールと違って、舞台との一体感があります。
風間杜夫と太地喜和子・・・「楡の木陰の欲望」でしょうか・・・・?違うかな。

はい、さすがマダム、その通りです!
最後の最後、殺された赤ん坊が包まれた布を持っていた役者さん、
ボトンと人形を落としちゃったので驚愕しました。
あの当時、つかさんは太地さんを「蒲田行進曲」映画版の小夏に、と考えていて、
舞台をみてちょっと違うなと思ったという記事をどこかで読みました。
風間杜夫大ブレイク前だと思うし、そういえば芝居のチケットも取りやすかったような気がします。

・・・新派とか、俳優さんのプロフィールとか全く知らなかったし、下調べすらしてなかった(歌舞伎出身の方という、基本的なことすら・汗)のですが、すごく楽しめました・・演技とか俳優さんの存在感とかについては皆さん言いつくされているので もう書くことないのですが、
オリジナル脚本、”江戸川乱歩””一寸法師””黄金仮面”とか、メタっぽいセリフが多くてしびれました。・・なんで、”小林少年”や”少年探偵団”がでないんだ~~とか、わけわからんことも 考えてました(まあ、そんなものだしたら ”黒蜥蜴”の世界観がぶち壊しになることは重々承知ですが。笑)・・ソファのトリックも 実は”人間椅子”ですしねぇ。

・・こちらのブログでは来年の”黒蜥蜴”、あんまり評判よろしくなさそうですが(←お気に障ったら申し訳ないです・)自分は おそらく 最近の 舞台版で一番原作に近い年代(たしか緑川夫人は30代だったような)の黒蜥蜴はどうなんだろう、成河さんの雨宮青年はどんなもんだろう、という興味はあります。

(今回の雨宮青年が、頭&感受性がスカスカで、でも、自分の肉体美はすごいぞとか言っちゃうシーンで、黒蜥蜴の部下のおばちゃまがものすっごい嫌な顔していたのが個人的にはツボでした・・)

当時は、着物にキンキラのネックレスとか合わせてもOKなんだ~~とか。
ロビーも狭いながらも 豪華で、本物かレプリカか よくわかりませんが、すごく大きな宝石(←ボキャ貧ですみません・・)とか展示してあって眼福でした・・・

美輪ちゃま版黒蜥蜴、前回(2015年版?)で終わり!と言われていて いや、そんなことはないだろう!と思っていましたが、 これだけいろんなところで黒蜥蜴をやる、ということは、本当に美輪ちゃまの黒蜥蜴はもうみられないのかな。。と思うとちょっと寂しかったり・まあ、80代の方に三島版のねっとりした感じの舞台を完璧に仕上げなさい、というのは さすがに ご無理なんでしょうが・・と、今回の舞台とは関係ないことまで書いちゃいました。申し訳ございません。

・・・”小林少年”であっているかな?とぐぐったら..(なんせ 原作とかドラマみてからウン十年なもんで)
なんと、本名が

”小林芳雄” らしいですよ。

”芳雄”くんか・・まさか、そんなメタ的なことで来年 明智さんやるとかではないでしょうが・・(だったら逆に面白すぎですが・あくまで個人的に 汗)

(↑ このブログ読者さまのお気を害するようなネタでしたら、大変申し訳ございません。)

hikaruさま。
当時から風間さんは、なんでもやる(いい意味)役者さんだったんですよね。私はとにかくつか劇団の風間さんを偏愛していたから、他の舞台を素直に見ることができませんでした。若い、ってダメだな。
 
わんわんさま。
いえいえ、私の周りでは、来年の芳雄君の明智、見るぞーって言ってる人、たくさんいます。芳雄君を、というより、ルヴォー演出の黒蜥蜴ってどんなだろう、とか、ソンハ君見たさとか、色々ですけど。私だけが、観る気が起きなくて、このままだと奪チケット戦に参加せずに終わりそうです。
新派って、かつては「え?女形と女優が一緒の舞台に立つの?」という驚きがあり、それが特色だったんですが、今ではどんな舞台でも、男が女役やるのは普通で(新感線から野田地図、ハイバイまで)
男役ができる女優さんもいるし(日本のキャサリン・ハンター、伊沢麻紀さんとか)、そういう部分は驚きではなくなりました。ただ、歌舞伎の手法を使って現代劇をやる、っていうのが特色ですよね。なんか、本当に楽しかった。

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