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降り注ぐ演技の稲妻 中川晃教の『ジャージーボーイズ』

 怒涛の演劇月間第2弾。7月9日(土)ソワレ、シアタークリエ。

ミュージカル『ジャージーボーイズ』
脚本/マーシャル・ブリックマン&リック・エリス 音楽/ボブ・ゴーディオ 詞/ボブ・クルー
翻訳/小田島恒志 訳詞/高橋亜子 音楽監督/島健 振付/新海絵理子
演出/藤田俊太郎
出演 チーム・ホワイト
    中川晃教 中垣内雅貴 海宝直人 福井晶一
    太田基裕 阿部裕 まりゑ 綿引さやか ほか

 

 中川晃教の『モーツァルト!』がどれほど凄かったか、各方面から聞かされるたび、いつか彼のミュージカルを観ようと決めていたマダム。でも、観るからには、いい作品でと思い、機会を狙っていたの。
 『ジャージーボーイズ』はクリント・イーストウッドが映画化したほどの作品。遂に来たー!と思ったね。そしてわざわざ、映画を観るのを我慢して、この日を迎えたの。
 今、舞台を観終わって、ひとこと言うとしたら。

 マダムは恋に落ちたー、中川晃教のフランキー・ヴァリに!!!
 この恋は醒めない、マダムが生きている限り!嗚呼!
 
 アメリカで1960〜70年代に活躍したザ・フォー・シーズンズというコーラスグループの物語。トミー(中垣内雅貴)、ニック(福井晶一)、ボブ(海宝直人)、そしてフランキー・ヴァリ(中川晃教)それぞれの、一人語りを挟みつつ、ストーリーが進んで行く。

 ニュージャージー州の貧しい片田舎。トミーは、ここから這い上がるためには「軍隊に入るか、ギャングになるか、スターになるしかない」と説明し、事実、トミーとニックが盗みで代わる代わるに牢屋に入ってしまうので、二人のやっているバンドはいつもメンバーが足りないのね。
 そんな二人のところへフランキーという名の、特別な歌声の持ち主が現れて、トミーは彼をメンバーに入れる。更に、作曲のできるボブが加わったことで、フォー・シーズンズは、一気にスターダムにのし上がる。
 彼らの初期のヒット曲、一つ一つが楽しくて、素晴らしい。「Sherry」や「Big Girls Don't Cry(恋のやせ我慢、という邦題がついてるらしい)」など、みんな一度は耳にしたことのある曲なんだけれど、ここでもう、中川晃教の歌声に驚愕よ。信じられないような高音を、信じられないような歌い方で、聞かせてくれる。フランキー・ヴァリを演じるなら、この特別な歌い方ができなければならない。そして、それができる人は今、日本に彼以外、いったい誰がいるかしら?
 
 スターになったのは良かったけれど、4人は決して幸せではなかった。トミーは、全米ツアー中も常に飲んだくれて賭け事に興じ、借金を作ってしまう。ボブとフランキーは互いの、作曲と歌唱力の才能を認め合い、今後の協力を約束し合うのだけれど、当然他の二人は面白くない。

 そして遂にトミーの莫大な借金問題が明るみに出て、彼は借金のカタにラスベガスに連れて行かれることになり、フォーシーズンズは空中分解する。ニックも、去っていく。「グループ内で、いつもリンゴ・スターの位置にいるのは、面白くないよ」と自嘲気味に言って、自分の才能に見切りをつけるの。
 そしてここからは、フランキー・ヴァリの物語になっていく。
 
 フランキーは、ソロ歌手として活動していくことになるのだけれど、トミーの莫大な借金を自分が返していくことを選ぶのね。いくら仲間といっても、トミーが一人で博打で擦った金を、フランキーが返す必要などないの、普通に考えれば。でも、フランキーはそうするの。なぜなら自分たちは「ジャージーボーイズだから」。ニュージャージーの貧しい暮らしから、一緒に這い上がった仲間だから。音楽の革命児であったビートルズと違い、いつまでも貧しい人たちから愛される歌を歌ってきたグループだったから。
 題名が「フォーシーズンズ」ではなく「ジャージーボーイズ」である理由が、そこにあるの。

 友達の借金を背負う決意ができるほど、フランキーの才能は突出していたわけだけど、それでも彼は全然幸せじゃない。旅から旅へ歌い続け、借金は返していくけれど、すれ違いの妻とは破局し、大きくなった一人娘は、麻薬を打たれて死んでしまう。

 そのフランキーが、彼の最大のヒット曲「Can’t Take My Eyes off You(君の瞳に恋してる)」を、一人唱うシーンが、この芝居の最高の見せ場。
 中川晃教は、本物のフランキー・ヴァリの歌い方を、徹底的に研究したに違いない。マダムはあとから確認してみたんだけど、テンポや、単語の端々のちょっとした上げ下げや、少し溜めて歌う箇所など、本当にそっくりなの。
 だけど、中川晃教がやって見せたのは、歌い方の真似では、断じてない。
 貧しい子供時代から、歌の仲間と抜け出し、ただひたすら歌い、仲間と別れ、それでもひたすら歌い、家族を失い、それでも歌うフランキー・ヴァリ。それまでの生涯の悲しみ、孤独、そして唯一歌うことの喜び、その全てを、中川晃教はこの歌に込めてみせた。なんという、才能だろう・・・。これが本当の歌の演技力よ。降り注ぐ演技の稲妻。マダムは身も心も差し出して、その全てを浴びたの。
 彼が歌い終わった時、客席から割れんばかりの拍手がおき、みんな、芝居の途中なのにスタンディングオベーションしてしまいそうだった。この感動を、どうやって表現してよいか、皆もう、叫びだしそうだった。

 ラストは彼ら4人のその後を軽く触れ、今も現役で彼らがそれぞれの活動をしていることを示して終わり・・・・そしてミュージカルらしく、全員で歌いショーを盛り上げて、幕となった。
 
 出てくる役者たち皆、歌は上手くて、どのシーンも楽しかったし、とてもよかった。でも、中川フランキーは、もう別格。彼なしにこのミュージカルの日本上演はなかった。その場に居合わせたマダムは、なんという幸運でしょう。
 
 2週続けて、歌の演技力に満ち満ちたミュージカルを観てしまって、マダムはすっかり魂を持っていかれてしまった。今ちょっと、抜け殻なマダム。もうそのまま、そっちへ行ったまま帰ってこない方が幸せなんじゃない・・・だろうか?

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コメント

初めまして、お初にコメントさせていただきます。いつもマダムの演劇への愛と尊敬に溢れた名文を楽しみにしております。

実はジャージーボーイズ、スケジュールが合わずチケットを取っていないのですが、今なんとしても行くべきだった!と後悔しています。歌う中川さんの色っぽさは本当に特別ですよね。先日観た「グランドホテル」も素敵でした。(もちろん作品自体もスリリングで楽しめたからですが!)

演劇は現実を忘れさせてくれますが、でも現実と無関係ではいられませんものね。作る側も見る側も、いつまでも演劇に自由に恋できる世の中であってほしいです。
長々と失礼いたしました。今後も更新を楽しみにお待ちしております。

おめでとうございます。
私は、もうすぐ観劇予定ですよ。楽しみ〜〜。
アッキーのミュージカルを観た人たちが、こぞって
「とにかく、アッキーは『別格』」
という意味がわかったでしょう?
そうなの、彼は基本は歌手なんだけれど、単に歌うまさん〜ってわけじゃなく、ちゃんと
演じる人の人生を歌に乗せることができるんですよね・・・。
なんなんでしょうね、あの才能、恐ろしい子。

えちるどさま、初めまして。
お返事遅れ、すみません。
私が「ジャージーボーイズ」を見たのは、参院選の前夜でした。私は将来をとても不安に思いながら、見たのです。今後何年か経った後、この夜のことを、芝居とは違う意味で思い出すのではないかと、恐れながら。
色々な意味で、中川くんの「君の瞳に恋してる」は私を揺るがしました。原題は「Can't take my Eyes off you(君から目を離すことができない)」です。この原題をそのまま、アッキーに捧げたいと思いました。
見続けたい役者さんたちがたくさんいる。政治に邪魔されたくない、と思っています。
 
ぷらむさま。
私の少ない経験の中で、一番ミュージカル俳優の名にふさわしい役者さんだと思いました。参りました。恐れ入りました。という感じです。天賦の才、ですよね・・・・。

ジャージーボーイズ、映画版、来日公演、今回の日本公演と見てきて 今回が一番 しっくり来ました
来日公演版は サクサク進みすぎて 全く感情移入ができなかったんですよね〜歌は上手いけど リサイタルか…と思ってしまいました
日本公演版、アッキーも凄いですが RED版のトミーに感心しました。
ただの嫌な奴ではなく、愛嬌があって …イタリア系のギラギラ感は日本人にはなかなか ハードルが高いのではと思ってましたが、いいトミーっぷりでした

アッキーは過去にフランス版 ロックミュージカル モーツァルトで山本耕史と交互にモーツァルトとサリエルを演じていて、モーツァルトは大丈夫だろうけどサリエリは無理じゃね?
というこちらの予想を上回る サリエリぶりでした…
来年は あの スヌーピー も演じるらしく、期待してます。
逆に(というと語弊がありますが)プリンス 井上のグレートギャッツビーは ハードル高そうな…
女のためにパーティ三昧で破滅するキャラには見えない…頑張れ〜

わんわんさま。
チームレッドの方が評判がたかそうですね、でも私はホワイトしか見てないので、なんとも。
とにかくアッキーが凄すぎ、未だに余韻が頭から離れません。
今後は、全部は追えないものの、アッキーを要注意人物として監視するつもりです。
井上くんのギャッツビーはね。どうでしょうね。
でも、金持ちだけど、本物のプリンスではない男、をやるのは、良さそうな気がします。
演出家がいつもと同じなんで、そこがね・・・。

あ、書き忘れがあったので 失礼します

…もしかしたらカテ違いなのかもしれませんが

今年の帝劇エリザベートの立役者のひとり、成河さんが次回 あの!楳図かずおの

私は真悟 の真悟(なんとロボット)で今からワクワクです〜

別の方ですが、PLUTO が面白かったので、海外のによる 日本漫画の演出が楽しみだったりもします

(…最初 成河 さんが楳図かずお 作品出演と聞いた時は チキンジョージだ! と思ってしまったのですが⇦それは "14歳"恥)

安寿さま、お久しぶりです。
いろいろ教えていただき、ありがとうございます。
私は基本的には、来日公演ってあまり見に行きません。日本では、日本語の芝居が観たいな、と思っているので。(でも例外はありますけどね。)
クリント・イーストウッドの映画は先日、見ました。音楽に精通している彼なので、ミュージカルの映画化も間違いなしと思っていましたが、予想通り、素晴らしかったです。

いい舞台は、本、演出、役者と三拍子揃ってこそなのだ、と確信させられる作品ですね。

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