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マダム イン ロンドン その2 続『ビリー・エリオット』

 2015年9月18日(金)19:30開演。Victoria Palace劇場。

『BILLY ELLIOT   THE MUSICAL』
Music/ELTON JOHN   Book and Lyrics/LEE HALL
Director/STEPHEN DALDRY
Cast     BILLY                            Brodie Donougher
            MRS.WILKINSON           Wendy Somerville
            DAD                             Deka Walmsley
            TONY                           Chris Grahamson
            GRANDMA                   Gillian Elisa
            DEAD MUM                  Claudia Bradley
            BILLY'S OLDER SELF    James Butcher
            MICHAEL                     Nathan Jones
 

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 これが本日のビリー役のブローディくん。
 プログラムには歴代41人ものビリー役の子たちの写真がずらっと並んでいますが、髪の色や顔形、様々です。似た子を選んでいるわけではなさそう。東洋系や黒人系の顔の子もいます。容貌が決め手なのではなく、歌、ダンス、演技が大事なのでしょう。当たり前のことですが。
 そして、芝居が始まって驚いたのは、ブローディくんの演技が、中継映画で見たエリオット・ハンナくんと、寸分違わぬ演技だったことです。台詞の言い回し、歩き方。台詞をためるタイミング、叫び声のパワー、こぼす涙の量(!)。ほぼ同じなのです。驚きです。
 そこで私は今までの自分の認識が間違っていたことに気づきました。ダブルキャスト(あるいはトリプル以上でも同じことですが)というものに対する認識。ビリー・エリオットという男の子は、こういう話し方で歌い方で、こういう歩き方で、こういう笑い方で泣き方で・・・と演出家が全て決める。それを指示通りに体現するのがダブルキャストの役割であって、その高い高いハードルを越えた者だけが役を得るのです。どのキャストであっても、ビリーという役がブレたり解釈に違いが出ることはない。ダブルキャストというのは、そういう品質を保障するものだったのです。
 こんな言い方だと、まるで役者がロボットのように聞こえるかもしれませんが、それは誤解です。同じなのは、表面的な動きだけではなくて、感情のこもり方も、なんです。だから驚いたのです。もし、個性と云うものが出るとしたら、高〜いハードルをクリアした、その後の話なのですね。

 この日、ビリーのバレエの先生ウィルキンソン夫人は、いつもの役者ではなく、understudy(代役)の役者でしたが、やはり全く同じような演技で、遜色なかったです。ただ、どこか輝きは違う。最初に私が映像で見たインパクトのせいなのか、もとの役者のオーラが違うのか・・・その判断は難しい。

 

 さて、レベルの高さの話はこれくらいにして、私がこのミュージカルのためにロンドンにまで行ってしまった、好きさ加減について話しましょうね。
 これはイギリスそのものを表現しているような芝居です。1980年代のイギリスを舞台にしていますが、当時の首相サッチャーの経済政策に対して、炭鉱で働く人たちが猛然と抗議し、長いストライキに突入している。その状況が物語全体を覆っています。田舎の炭鉱の町で、主人公の少年の父も兄も、炭鉱夫であり、ストライキに参加している、そんな只中で、ビリーはバレエの才能をウィルキンソン先生に見出されますが、場違いもいいとこなわけです。(その設定がいいのです。)
 だからアンサンブル(ミュージカルを支えるその他大勢の脇役の人たちのことです)は、8割がたが男性で、若者から老人までずらりと揃っています。この人たちが凄い。太った人、痩せた人、マッチョな人、少し貧相な人、背の馬鹿でかい人、髪のボサボサな人、禿げた人、揃っています。炭鉱夫の格好の時もあれば、対抗する警察官の時もありますが、とにかく全員が素晴らしい歌とダンスを披露します。身体能力が半端ではありません。その他大勢の人が全員、バレエが踊れて、タップが踏めて、歌の力が凄い。下手な人は一人もいないのです。どんなに太っていても、踊っちゃうし、その迫力たるや、大笑いしながら感動の嵐です。基調になっているのは『SOLIDARITY(団結)』という曲ですが、全員で歌い踊るパワーときたら、計り知れません。何度か出てくる歌ですが、真剣そのものの時と、ユーモアたっぷりの時と、どちらも私の心を身体ごと揺さぶるのです。
 仮にこのミュージカルの日本版を作るとしたら(実際に某ミュージカル専門劇団が検討したらしいですが)、一番難しいのがこのアンサンブルでしょう。まず、これだけの能力のバラエティに富んだ人たちがいない。「タップが踏める古田新太」みたいな人が30人くらい必要です。そして更に問題なのが、根本的な国民性の違いです。
 「Solidarity forever!(団結は永遠に)」と歌いあげる時、そこに悲壮感とか負け犬根性とかが、かけらもないのです。実際は、長いストライキの果てに彼らは負けて、炭鉱の仕事に戻って行くにもかかわらず。「団結して自分たちの意見を主張しようぜ」という心意気は、たぶんイギリス人の多くが血肉化しているものなのでしょう。残念ながら日本人には血肉化されているとは言えません。だから、表現できる役者も少ないでしょう。
 徹底的にサッチャーをコケにするクリスマスパーティの場面なども、日本では役者も観客も戸惑いそうです。現実に、政治家をユーモアと皮肉とブラックジョークでこきおろしたことがないからです。
 だから、このミュージカルは、ザ・イギリスな味わいの深い芝居です。懐が深いのです。アメリカでも表現されにくいのでは?(ブロードウェイでは、やったのでしょうか?)そういうところが、とても好きです。どうしても、ロンドンで観なきゃ!と思ったし、観に行ってよかった。客席で拳を振り上げて「Solidarity forever!」と一緒に歌いそうでした。歌いませんでしたが。
 長くなってます。なかなか主人公のお話になりません。その3で、必ずやそこを語ります。

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コメント

マダム様、ロンドンうらやましいです。
複数キャストについて、少々大学で勉強しておりました。日本のミュージカルファンはリピーターが多いと言うか、同一公演を複数回観る人が多いです。だから、ダブルキャスト=違いを楽しむことが前提のような、日本独自の解釈をされていると思います。スターシステムの徹底された歌舞伎などから連なる役者メインの日本の伝統と、作品メインの欧米の伝統の差ですかね。
今年始めに公開され、10月にDVD発売される映画「パレードへようこそ」はご存じですか?ザ・イギリスといえばこちらもです。イギリスで大ヒットしてミュージカル化が進んでいます。個人的に今年No.1の作品なので、お時間あればぜひご覧ください。

うんうん、なるほどね。すごく納得です。

もう25年くらい前になりますが、ニューヨークで『CATS』観た時に、
「日本人だけ」のカンパニーって限界があるなぁって実感したんですよね。
まあ主に、日本の某ミュージカルカンパニーのことになりますが。

日本は一応、単一民族国家だから、だいたい「みんな同じ」なんです。
多少の大小はあっても、外国みたいに、うちのオットより大きい
妖艶な美女とか、とてつもない「動けるデブ」とか、小柄な金髪男とか
といった、役者の見た目のバリエーションが少ない。
みんな同じ肌の色、同じくらいの背丈、同じくらいの声量、声のトーン。
それだと表現できないことってあるなぁ・・・と。
だからって、日本じゃダメだ¡とかってことでもないんですが、
今のところ、これを解決する方法って、私は思いつきません。

あ、ストライキの件はね、SEALDsなんかを見ていると、日本にも
新しい感覚の人たちが育っている気がしますよ。

sharkrakoさま。
うらやましいでしょう?  でも、私が前回ロンドンに行ったのは、たぶん、貴女が生まれる前です。それほど久しぶりだったので、ご容赦くださいな。
ダブルキャストの違いを楽しむ件ですが、違いならまだしも、差が大きくて、色々と突っ込みたくなりますよね。
S活動、お気張りください!


ぷらむさま。
「ビリー・エリオット」に関して言えば、田舎の話なので、アングロサクソン系の人ばかりなんです。それなのに、このバラエティに富んだ人たちはなに?と思います。日本は、日本人そのもの以上に、ミュージカル界に似たような人が集まってるんですかね。
ストライキの件、私もそう思います。今回のデモで歌われた「民衆の歌」は、日本で歌われた中で一番、気持ちのこもったものであったと感じているところです。

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