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宮沢賢治はいいひとか その1

 武道館コンサートの感想と、あと先になってしまった。文章に影響が出ないといいけど(出るでしょうね)。11月9日(土)マチネ、新宿サザンシアター。

こまつ座公演『イーハトーボの劇列車』
井上ひさし作 鵜山仁演出
出演 井上芳雄 辻萬長 大和田美帆 木野花
   土屋良太 石橋徹郎 みのすけ ほか

 
 衝撃はないけれど、いろいろと考えさせられる芝居だったわ。
 宮沢賢治は、生涯に9回、故郷花巻から上京した。そのとき乗った夜行列車と、東京で起きる出来事とを織りなして、芝居は出来上がっている。
 賢治(井上芳雄)は学生の頃、母と一緒に初めて上京する。妹のとし子(大和田美帆)が入院したのを見舞うため。そしてとし子の具合が落ち着いたのを見て母は花巻に帰るのに賢治は東京に残ろうとするの。憧れた東京から帰りたくなかったから。花巻で父(辻萬長)の商売(質屋)を継ぎたくなかったから。父の宗教(仏教・浄土真宗)ではなく、日蓮宗を信じていたから。
 芝居で描かれるのは、父への反発と、でも父の庇護から逃れられない自分の弱さに苦悩する賢治で、それは始めから終わりまで何ら変わらない。変わる程長くは生きられなかった、ということかしらね。37歳で亡くなっているんだもの。
 貧しい農民が、飢饉や災害に遭うたびに家財を質屋に持ってくる。それを商売にして、裕福に暮らしている父(と、その息子である自分)を賢治は嫌うの。なんどとなく反発して、家を出ようともするし、別の道で職を得ようと画策したり、わざと違う宗教に帰依したりする。だけど、父には議論しても負けてしまうし、仕事は長続きしなくて結局裕福な家に頼って生きるしかない。細々と書き続ける作品も、賢治が望む程、売れはしない。そして早い死がやってくる。
 貧しい農民に共感し、なんとかしたいと思う→でも自分は裕福な家に守られてる→恥ずかしい、独り立ちしたい→でも、作品は売れず、なにをやっても失敗ばかりだ→それでも貧しい農民の側に立ちたい→だけど自分は・・・(以下エンドレス)。
 このピュアな賢治像を、演出の鵜山仁も、主演の井上芳雄も守っているの。それはたぶん、ホンに忠実だってことだと思うし、なによりも井上芳雄の持ち味のピュアさを生かした舞台だったよ〜。
 第一声、もの凄い花巻弁でスタートしたので、これから3時間ずっとこれを聞き分けるのは難儀だわ、と思ったんだけど、次第に聴きやすい花巻弁にシフトしたので安心したわ。しかし、花巻弁の訛りも井上芳雄の声で聞くと、ふわふわした音楽のように聞こえるから不思議。
 
 だけど、観終わっていちばん感じたことは、ホンの出来が今ひとつ(井上ひさしにしては)かな?ということだったの。いろいろな要素を散りばめておきながら、結局、父なるものへの反発と敗北だけが突出してしまってる感じで、散漫な印象は否めない。賢治の葛藤も、議論の中になまな台詞で出ていて、芝居全体から浮かび上がるようには出来てなかった。
 特に気になったのは、「思い残し切符」。夢(というか妄想?)の中で賢治は、死んでいく人たちからの「思い残し切符」を渡される。何度となく出てきて、幻想的だし余韻を残すシーンでもあるんだけれど、芝居の中で占める位置がぴったり決まってない感じ。美しいシーンなのに、腑に落ちなさが必ずくっついてて、戸惑った。この気持ちは最後まで回収されずじまい。思い残すことを賢治に託して死んでゆく人といったら、妹のとし子以上の人は思い浮かばないのに、肝心のとし子の「思い残し切符」シーンが無いし。
 マダムはかつて宮沢賢治の作品をおおかた読んだことがあるのだけれど、かなりの部分は忘れてしまっている。だから、夜行列車に乗ってくる人物のどれが実在の人で、どれが作品の登場人物なのか、区別がつかなかったわ。いつもの(っていうか、切れのいい時の)井上ひさしだったら、そんな予備知識なんか無くても、どれが賢治の空想(妄想)が作り出した人物か、ちゃんとわかるように書いてくれたんじゃないかな。
 
 そしてここからはもう、レビューからはみ出ちゃうんだけれど。
 宮沢賢治は、こんなにいい人なのか?という根本的な疑問を抱いたの。
 長くなったので、その2に書くわね。

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コメント

このお芝居は、もう20年以上前に見ました。
ロビーで井上好子さんが艶然と微笑んでいました。

その時、宮沢賢治はいいひとか、と私も思ったんです。
だからこのタイトルを見ただけで膝を打ったわ。

ちなみに、舞台で振りまかれた思い残し切符、しばらく持ってましたが引っ越しで無くしちゃったわ。

井上ひさしの偉大な部分、ひどい部分、いろんなところがわかるような芝居だった覚えが。

続きが楽しみです。

サワキさま。
初演を見られたのかしら?
今回は新演出だそうで、演出も役者も様変わりしているはずです。
それでも、同じように「宮沢賢治はいいひとか?」と感じられたのだとしたら、これはやっぱり、ホンがそういうホンだってことですよね、きっと。
その2で、また考えましょう。

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