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役者同士の散らす火花が見たい 『ヘンリー六世』速報 その2

 芝居を観る喜びとは、なにかしら?
 大好きな役者の一挙手一投足にドキドキすること。カッコイイ役者を眺めること。女優の美しさに溜息をつくこと。綺麗な衣装や豪華なセットに眼を奪われること。
 この全てをマダムは眼福と呼ぶわ。だけど、それは決して芝居を観るイチバンの喜びではない。
 一番の喜びは、登場人物の感情の波がマダムに押し寄せ、心が掻き乱れて我を忘れ、血湧き肉踊っているうちに、いつの間にか脳細胞がすっかり入れ替わったみたいになることよ。
 劇場を出たとき、世界が変わったと感じられることよ。


 蜷川版『ヘンリー六世』の中で、マダムの心掻き乱れた瞬間はどのシーンか、と言えば文句無く、ヨーク公が無惨な死を迎える場面。後半の一幕目の幕切れだ。
 『ヘンリー六世』の中で、フランスとの戦いに多くを割く第一部を別とすれば、あとは全てが現国王側と、王位継承権を主張するヨーク公側との争いに終始する。いわゆるバラ戦争ね。国王側(紅バラ)を代表する女将軍とも言うべき王妃マーガレットは大竹しのぶ。敵対する白バラの長ヨーク公は吉田鋼太郎。
 戦いに次ぐ戦い、裏切りに次ぐ裏切りで、バッタバッタと貴族が死んでいき、もう誰が死んでも慣れたわと思った頃にこの場面がやってきて、マダムは初めて我を忘れた。
 捕虜になって抵抗できないヨーク公を、王妃たちがいたぶる。幼い息子の死を嘆き苦しむヨーク公を笑い者にするマーガレット。傷口に塩を擦り込むような残忍さを、瀕死のヨークは「女の皮をかぶった虎」と呼び、その悲痛な叫びに紅バラ側の貴族さえ涙を禁じ得ないのだけれど、マーガレットは情け容赦なく、ヨーク公に馬乗りになってとどめを刺すの。
 この激しい嘆きの台詞こそ、激情の役者吉田鋼太郎の真骨頂よ。7時間にわたる長い芝居の中で、唯一、大竹しのぶと拮抗し、激しい火花を散らした。二人のやり取りで化学反応が起き、劇場の空気がガラリと変わる。観客が息を呑んで見守り、その場面が終わって客電がついた時、どっと拍手がわいたの。ああ、素晴らしい。これで盛り上がって、いよいよ色悪リチャードの出番だぞ、ってワクワクして最終幕を待ったわ・・・。

 嗚呼、だけど、残念なことに、芝居の盛り上がりはヨーク公の死(つまりは吉田鋼太郎の退場)で終わってしまったの・・・あとはただの大竹しのぶ祭りになっちゃった。どうしてよ?何故なんだ?!
 もちろん細かいところでは、面白かったのよ。ずっと白バラだったウォリック伯(横田栄司)が一瞬で紅バラに寝返るところの、大竹しのぶとのやり取りなんか、最高。人間はこうまで簡単に気が変わり、簡単に人を裏切り、そしてそれが自分の得になりさえすれば、そんな奴でも簡単に受け入れる。登場人物のだーれにも肩入れできない、信用できない奴らばかり。
 だけど、結局、マダムの心に滲みたのは、ヨーク公が死を迎えるシーンだけだったのよ・・・。

 ということで、その3では、冷静に一つ一つ分析してみるね。当然、鵜山版との比較もするので、マダムの観てない第三部をご覧になった方は是非、コメントしてくださいね。

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コメント

すっかり春のような暖かい日差しの中、
オットは先ほど、さいたまへと出かけて行きました。
水筒には濃いめのコーヒー、そして昨日、私が
ホワイトデー用に焼いたショートブレッドを持って。
「おにぎりは要らないのか?」って、3回くらい
聞いちゃった(笑)。なんか人と会う計画があるらしい。


さぁどんな顔して帰って来るのかな。

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