最近の読書

« スケジュール調整難航 | トップページ | 日本語のわからない人が日本語の芝居を演出すること »

吉田鋼太郎の『リチャード三世』

 最近マダムは芝居を観にいくのに予習しないことにしているの。予習すると、どうも先入観を持ってしまって、楽しみも驚きも減るような気がして。
 だから今回も、久しぶりでお話は忘れているわと思ったけれど、予習はなし。まっさらな気持ちで、客席に座りました。劇団AUN『リチャード三世』(吉田鋼太郎演出)。恵比寿エコー劇場、5月23日のマチネ。

 3月14日の記事でも書いたけれど、吉田鋼太郎との付き合いは長い。でも、演出作品を観るのは実は初めてだったの。シェイクスピア・シアターや蜷川カンパニーで数々のタイトルロールを演じてきた人が、こんな演出を試みるなんて、ホントに面白いなあと思った。演出家の求めるように演じながらも、頭の中にはいろんなアイデアが浮かんでいるのだな、と。
 薔薇戦争中の話なので、セットも衣装も、赤と白で統一されてて、美しかった。でもリチャード側の内紛のはなしだから、登場人物たちの衣装はほとんど白。白いスーツで決めたこわもての男たちがずらりと並ぶ。すると、台詞はシェイクスピアなのに、芝居は完全に東映やくざ映画とか『ゴッドファーザー』の世界に見えてくるから不思議。リチャードに夫と父親を殺されたアンは喪服(着物よ、着物!)で登場するし、その喪服姿の未亡人を白スーツのリチャード(もちろん吉田鋼太郎)が強引に口説き落とすと、シーンはもう五社英雄なのよ。台詞は『リチャード三世』なのに。
 こうなると、次はどうなるかしら、ってワクワクしながら芝居についてった。権謀渦巻く跡目争いの抗争を、リチャードが手練手管で勝ち抜いていく。居並ぶやくざ(じゃなくって貴族なんだけど)たちが巫女姿の女たちに酒を注がれて乾杯すると、それはやくざのカタメの杯にしか見えない。リチャードのスーツの背中に描かれた白い薔薇は、やくざの代紋にしか見えない。これだからシェイクスピアは面白いのよねー、とため息。あらゆる演出を受け入れる懐の深さがあるのよ。日本語に翻訳されることで、台詞の豊かさはずいぶん失われてしまうけれど、その代わりに演出の自由度が広がるのね。これを享受するのは日本人の特権よー。(とひとりで盛り上がるマダム。)
 極めつけは殺陣、だった。マダムはシェイクスピアを含め何十回も殺陣を観てきたけど、こんな恐ろしい殺陣を初めて観た。怖かったよー。だってね、武器が、金属バットだったのよお。小さな劇場だし、マダムは前の方の席だったので、ほんの2、3メートル先で繰り広げられる、金属バットの殴り合い。暗殺者の武器も金属バット。頬さえぴくりとも動かさず全くの無表情で金属バットをふるうの。舞台上でこれほど怖い暗殺者を観たのも初めてだったわ。
 時代劇の殺陣は、どこか踊りのようでしょう?そして西洋のフェンシング風の殺陣もまた、日本人の眼から見ると舞のように見える。でも今回、全く踊りに見えるところはなく、本当に殺しあいの恐ろしさをまざまざと見たと思う。金属バットで惨殺されるリチャードの最期は、これまで見たことがないほど惨めだった。でもこれこそシェイクスピアが書いたリチャードの最期に違いない、とマダムは凄く納得したの。
 こんな風に書いてくると、じっとりした舞台だったかのようだけれど、それは違うの。全編を通してボブ・ディラン(よね?)のカラッと乾いた歌声が流れ、芝居は感情に流れすぎないように抑制されていた。そこがまた凄い、と思うよ、マダムは。乾いてて怖い。怖くて乾いてる。
 上演時間は意外と短く2時間ちょっとだった。たぶん台本はかなりカットされていた。そのせいか、リチャードの不具であることからくる劣等感と、その劣等感が増幅する憎悪の表現は、ちょっと弱かったかなとも思う。それでも充分、シェイクスピアの面白さを味わった2時間だったわ。マダムの中の眠っていた気持ちを呼び起こされてしまったよ。
 ああ、もっといろんな演出でシェイクスピアが観たい!毎週、観たい!なんとかしてー。

« スケジュール調整難航 | トップページ | 日本語のわからない人が日本語の芝居を演出すること »

シェイクスピア」カテゴリの記事

吉田鋼太郎」カテゴリの記事

芝居レビュー 」カテゴリの記事

コメント

初めまして。遅ればせながら拙劇団のリチャード三世の劇評を拝読いたしました。非常に的を射たご指摘に感心するやら爆笑するやらで、とても楽しませていただきました。早速印刷して劇団員に読ませてやろうと思っております。おっしゃるようにここ数年多忙を極め、思うよな劇団活動ができにくい状態ですが、このような感想をいただくと、改めて褌を締めなおさねばという気持ちになります。今後とも劇団AUN共々、厳しく、温かく見守ってやって下さい。突然お邪魔してごめんなさい。失礼いたしました。

吉田鋼太郎さま。

あの・・・本当に鋼太郎さんなんですね?本物の?
凄く凄くびっくりしてしまって、声も出ないです、感激で!

私の方はずっと観させていただいているので、ほとんど知り合いのような気持ちに勝手になってしまい、勝手なことを書き散らしてきましたが、それをまさか、御本人に読んでいただけるなんて、思ってもいませんでした。嬉しいです・・・(涙)。
『ムサシ』の再演を観に行きます。どうぞ、お怪我のないよう、ご自愛くださいませ。

ちょっとだけ、自慢させてやってください。
本物の吉田鋼太郎からコメントがきたぞ、って、これから自慢の記事を書きます。一度だけですから、大目に見てやってください。お願いします!

コメントを書く

コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。

(ウェブ上には掲載しません)

« スケジュール調整難航 | トップページ | 日本語のわからない人が日本語の芝居を演出すること »

2018年6月
          1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30

関係するCD・DVD

無料ブログはココログ